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何故我々は「指名委員会」の重要性を強調するか 門多 丈

2012年02月28日
実践コーポレートガバナンス研究会の理事会が提言した会社法改正案・中間試案に対するパブリックコメントの中では、指名委員会の重要性を強調した。オリンパス社や大王製紙の不祥事のコーポレートガバナンス上の教訓が、「社長、役員人事がお手盛り、密室で行われたこと」の問題にあると考えるからである。
法制審議会の会社法制部会の「会社法改正案・中間試案」に対するパブリックコメントとしての実践コーポレートガバナンス研究会の理事会の提言(1月30日付けブログに掲載)を、気鋭のジャーナリスト磯山友幸氏が講談社のウェブマガジン「現代ビジネス」の下記コラムで取り上げている。特に「指名委員会」の義務付を主張したことを評価してもらっている。


この点は産経新聞の松浦記者(NY駐在編集委員)も「SankeiBiz」の記事の中でコメントしている。


この提言で我々が指名委員会の重要性を強調したのは、オリンパス社や大王製紙の不祥事のコーポレートガバナンス上の教訓が「社長、役員人事がお手盛り、密室で行われたこと」の問題にあると考えるからである。このような社長、役員人事のために株主の利益は長年にわたって毀損されたのである。今後の企業の成長戦略や構造改革の面から、誰が経営者として適任か,社内外の多様な人材の中から候補を選び、合理的な基準で指名委員会於いてフェアに検討すべきという考えである。GEのウェルチは自分の後任候補3人(この場合候補ははすべて社内)を自らの在任中のかなり早い段階で指名委員会に提示し、各指名委員会委員は彼ら候補を長年にわたり監察したという有名なエピソードがある。

経団連の「社外役員は必ずしも機能しない」と言う主張は説得力がない。経営の業務執行についてのガバナンスについて、あるべき体制について説明義務を果たしていない。オリンパス社、大王製紙社の事件についても例外的な不祥事と簡単に片付けているが、米国のエンロン事件の時にも言われた「腐ったリンゴ」扱いの類である。経団連幹部の企業経営者は、自分の会社ではコーポレートガバナンスが機能し、このような不祥事(「不味いことは隠蔽する」)は起こらないことを説明・証明する義務がある。この議論を詰めていくと、経営の業務執行などの重要事項については、やはり社外の目による監視が重要であることとなると思う。

太田康夫氏の「バーゼル敗戦;銀行規制をめぐる闘い」(日本経済新聞社)で興味深い記述がある。バーゼル・ルールでの自己資本規制の導入にあたり、「日本には独自の金融風土と銀行システムがある」と主張し、銀行の経営者が規制導入の本来の趣旨(健全経営の尺度とすること)を考えることを怠ったと批判している。自己資本に含み益の算入などで特別扱いしてもらうように強力に働きかけた。そので一方規制に守られた中で貸出競争に走り、過剰貸出による深刻な不良債権問題を引き起こした、とも論じている。現在経団連などが社外独立役員の導入に反対しているのにも、同様なモラルハザードを感じる。

今や世界のコーポレートガバナンスの主流は、経営と執行の分離の下で社外取締役が取締役会の過半数となる仕組みである。現在は取締役会議長にはCEOはなるべきではないとの議論にまでなっている。欧米に比較して日本企業全般のROEは明らかに低い。日本独自の経営風土・システムを主張し社外取締役の導入に反対するには、(社外取締役がなくても)企業の高収益や経営の透明性は達成できると海外の投資家にも説明できる合理的な根拠が必要となろう。

(文責:門多 丈)


コメント

監査役選任議案の提案権を監査役会に いたさん | 2012/03/23 22:06

貴会の「監査役会設置会社においては,監査役候補者の選定について監査役会が権限を有するものとすべきである。」というパブコメ意見について。実は小生も全く同趣旨のパブコメを提出していました。今までの議論の推移を見ると、多分同調者はいないだろうと考えていましたので、大変嬉しく思います。現実問題として、監査役を指名するのは経営トップであり、その選任基準は監査役に適格かではなく、自分にとって都合がいい人物かどうかです。とりわけワンマンと言われる経営者にその傾向は強い。監査役としては自分を役員に引き上げてくれた、また今後の人事権も握る経営トップを厳しく監査することは難しいというのが実情でしょう。監査役の人事的な地位・独立性の脆弱性の克服はその監査の実効性の向上に決定的に重要であるのみならず、社外取締役や社外監査役の持つ牽制・是正機能を生かすためにも不可欠です。こうした意見がなかなか拡がらないのは大変残念です。


コメントありがとうございました 門多 丈 | 2012/03/24 18:40

コメントをありがとうございました。我々は指名委員会と言うオフィシャルな場で経営トップ、取締役を会社の戦略的な課題やリスクの点から、候補者の社内、社外分け隔てなく十分調査し、議論し、選ぶべしと提言したものです。 
監査役についても同様の考えで監査役会自身で選ぶこととし、常勤監査役候補も同じ扱いとします。私どもの研究会で、昨年東証一部上場企業の常勤監査役の人材紹介をしましたが、その方は大企業の内部監査のエキスパートでした。彼は着任早々その会社で定められているリスク管理規定が実情にそぐわないことなどを「発見」し、精力的に改定作業に取り組みました。 

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