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「歴史における危機」の渦中にて 門多 丈

2012年01月06日
水野和夫氏著「終わりなき危機―君はグローバリゼーションの真実を見たか」(日本経済新聞出版社刊)は、先進諸国が今日抱える政治・経済の問題を歴史的、構造的に分析している。「歴史における危機」を悪化させている要因にコーポレートガバナンス上の諸問題がある。
リーマン危機、欧州危機に象徴されるグローバルな政治、経済、金融の状況は、米国の長期凋落傾向、中国の覇権主義的な興隆、「アラブの春」に象徴される民族主義の台頭、(欧州圏内などでの)国家主権間の軋轢、先進諸国での財政破綻,通貨危機(ユーロ統一通貨は金本位制と同じデフレ効果をもたらした)など、まさに第二次大戦前夜の(戦争以外は何でもありの)それに酷似しているとも思う。資本主義、市場主義、民主主義の枠組み自体が将来に向けて問われているのである。水野和夫氏著「終わりなき危機―君はグローバリゼーションの真実を見たか」(日本経済新聞出版社刊)は、このような問題を歴史的、構造的に分析しており大変示唆に富む著作である。

著者は現在のグローバリゼーションの発端は、1973年の石油危機にあるとする。原材料の高騰で実物経済の利潤率が低下し、その弥縫(びほう)策として80年代の金融自由化が進められ、現在は新しい成長を「電子・金融空間」で求める形でのグローバリゼーションの時代に至っていると論述する。「電子・金融空間」は著者の造語であるが、アジア通貨危機、エマージング経済の興隆と先進国でのデフレ、ITバブル、リーマン危機などの本質をとらえている。現在進行中の欧州危機も「電子・金融空間」の生み出した外縁の問題と理解できる。

著者はグローバリゼーションの中ではバブルの生成と崩壊が繰り返され先進国でのデフレが定常化することを予見する。また現在進行中のグローバリゼーションの本質を分析し、その危機の特徴を「長い16世紀」(スペイン帝国の衰退と、英国の勃興)に通じるものとしている。両者に共通の特徴は「利子率革命」によるデフレと超低金利であるとする。現在の「歴史における危機」の背景には先進国での低成長と利潤の低下がある。その過程では新たな「海の時代」からの「陸の時代」への移行が起こるが、最終的には「世界構造の革命(脱近代化)なくしては問題の解決はありえないとする。

この過程で問題をさらに悪化させたのがコーポレートガバナンス上のもろもろの問題であったと考える。ギリシャの危機に見られるような国の財政規律の無さ、企業経営ではエンロン事件やリーマン危機で露見した経営者の貪欲さやROEを上げるためのリバレッジ効果を狙っての過剰借り入れなどである。著者は先進国の企業の利潤が低下する中で、ステークホールダーの一員である労働者への分配が削られて行くプロセスも指摘している。米国ではこのままいけば「資本と労働の断絶」という深刻な状況が想定される。現に反ウォール街デモには中流層の人達も多く参加しているという。

米国の金融政策についての評価も厳しい。グリーンスパンについては、ITバブルが弾けた後にその打撃を和らげるために「積極的な金融緩和政策をとり、次の証券化商品ブームと住宅バブルを生んだ」とし、バーナンキFRB議長(ヘリコプター・ベン)の金融緩和政策では真のデフレ克服はできないと断定する。

「歴史における危機」の中での日本であるが、著者はバブルの崩壊やデフレの進行が早かったことに強みがあるとする。「海の時代」からの「陸の時代」への転換の中では、近代化のニーズが高いアジア・ユーラシアとの近接や技術力の面で日本は有利なポジションにあるとも考えている。著者はポスト近代化の中では脱成長、脱テクノロジーを想定する。著者はポスト近代化の構造革命として脱成長、脱テクノロジーを想定する。現在70億人にも人口が達したグローバル経済の中で日本の「あるべき姿」がいかなるものか、著者には今後さらに考察を深めてもらいたい。

(文責:門多 丈)

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