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コーポレートガバナンスとオリンパス社事件の教訓 門多 丈

2011年12月22日
オリンパス社第三者委員会報告を受けて設立された三つの委員会は、本来平常時にあるべきコーポレートガバナンスの機能を緊急事態の中で体制化したものと言える。また、 一連の企業不祥事を受けて社外取締役の起用を義務付ける案が出ているが、これに反対する経団連などの論拠は説得力に欠ける。
オリンパス社第三者委員会報告を受けて、同社には三つの委員会が設置された。そのうちの2つは、取締役(法的な善管注意義務の)責任について法的に調査・検討を行う「取締役責任調査委員会」、同じく監査役、会計監査人、執行役員などの責任についての「監査役等責任調査委員会」である。前者は監査役会、後者は社外取締役の責任で設けられた。監査役会が会計監査人、執行役員の責任の調査・検討に関与しない問題はあるが、平常時にあるべきコーポレートガバナンスの機能を緊急事態の中で体制化したものと言える。これらの委員会では取締役会の内部統制、監査役会の監視・監督の今回の事件の責任について、将来の日本のコーポレートガバナンス向上に資するような調査を期待する。海外の投資家からは監査法人についての不信も根強くあり、監査法人の責任も論理的に追及してもらいたい。

もう一つの経営改革委員会は、今後のための経営、内部統制、コンプライアンスの見直し、事業再建計画の策定に主体的に関与する。次回株主総会への会社の改革提案について、事前審議と承認の強い権限も与えられている。今後のありうべき体制については社外取締役の効果的な配置を前提とし、経営と執行の分離の実が上がる枠組みを提案して欲しい。また「飛ばし」や「損失の解消」が一握りの経営トップで可能となった企業風土や組織、内部通報制度の不備(安全で効果的に通報出来る仕組みとなっていなかった)についてもメスを入れて欲しい。

一連の企業不祥事を受けて社外取締役の起用を義務付ける案が出ている。社外取締役については独立性と機能の面で、形式的ではなく実質的な人材配置をすべきである。会社としては内部統制体制確立の観点からの、その起用に説明義務があることを自覚すべきである。社外取締役の起用義務付けの動きに対し、経団連などは「経営の自由度、効率、スピードが制約される」とし強く反対しているという。この意見には経営者が会社を自分のものと考え切り盛りしたいと言う意図が見える。オリンパス社の旧経営陣は精一杯「経営の自由度、効率、スピード」を活かし不祥事に走ったのではないか。取締役会で議論と検討を尽くし、株主などのステーク・ホールダーに対しての経営としての説明責任を果たす誠実さがあるのかが疑問だ。この議論では、コーポレートガバナンスの前提である「経営と執行の分離」の理解も欠如している。取締役会が企業のミッション、経営戦略の大きな絵を描き、リスクの所在も認識したうえで業務は執行陣に任せる役割分担についての認識が不足している。そのような状況のままで「経営の自由度、効率、スピードが制約される」と議論するのは意味をなさない。

今回の不祥事の真の総括は当会の安田専務理事が12月19日のブログ「社外取締役の義務化をめぐる議論について」で論述しているように、「社外取締役を複数選任することを前提(必要条件)としたうえで、どうすればコーポレートガバナンスを実効的に機能させることができるかという十分条件を模索に力を入れる」ことにあると思う。今回の事件を契機に海外では日本企業全般についてのコーポレートガバナンス、経営の透明性や自浄能力についての不信が高まっている。企業経営者はこれらを自らに提起された問題と認識し、コーポレートガバナンス改革に取り組むべきである。

(文責:門多 丈)

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