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社外取締役の義務化を巡る議論について 安田 正敏

2011年12月19日
12月7日に法制審議会の会社法制部会が会社法改正に向けた中間案の中に社外取締役を1人以上置くことを義務づける案が含まれています。経済界の重鎮は反対しているようですが、上場企業の経営者は、社外取締役を複数選任することを前提(必要条件)としたうえで、どうすればコーポレートガバナンスを実効的に機能させることができるかという十分条件の模索に力を入れるべき時に来ているのではないでしょうか。
オリンパスの第三者委員会の報告について当会の門多代表理事が12月20日のブログで注目すべき点について書いていますが、その中で「取締役の誰かがこのような議論をすべきで、特に社外の独立役員が論陣を張るべきものであったとも思う」と指摘しています。この社外取締役については、この第三者委員会の報告が公表された翌日の12月7日に法制審議会の会社法制部会が会社法改正に向けた中間案をまとめ公表しています。

そのなかで、社外取締役を1人以上置くことを義務づける案が含まれています。対象は「上場している会社法上の大会社」、または「有価証券報告書を提出している会社」とされています。ただし、「法改正を行わない」という案も併記されており、これらを含め意見を広く募った後で最終案をまとめ、「早ければ来秋の臨時国会に改正法案を提出する方針」と、12月8日付けの朝日新聞朝刊に報道されています。

この社外取締約義務化の案については、同紙の記事によれば、「経団連の米倉昌弘会長は7日、記者会見で「オリンパスには3人の社外取締役がいた。義務付けても改善にはならない」、また大手自動車会社幹部は「社外取締役が権限を持てば、意思決定に時間がかかってしまう」と、経済界を代表する人たちが否定的な意見を述べています。しかし、前者の議論は、コーポレートガバナンスを有効に機能させるための十分条件が整っていないという理由で必要条件まで否定する乱暴な議論であるし、後者の議論は所有(資本)と経営の分離のもとでの社外取締役の役割を全く理解していない議論です。

おりしも、12月14日に大和総研の藤島裕三氏と吉田信之氏が、「ISSが新たな助言ポリシーを発表」というレポートを出しています。これによるとISS (Institutional Shareholder Services Inc.)が11月17日に機関投資家向けの議決権行使助言サービスのポリシーとして、社外役員、役員報酬、株主提案について新しいポリシーを公表しています。そのうち社外役員については、「2013年以降、社外取締役が1人もいない場合、経営トップの選任議案に反対」、「主幹事証券会社の出身者を、社外役員の独立性を判断する場合の毀損要件に追加」、「取引先出身者の社外役員は、具体的な取引金額の開示がなければ独立性を認めない」の3点を明らかにしています。これを受けて同レポートは「制度改正によって社外取締役の選任が義務付けられる可能性も小さくない。上場会社においてはこれを機に、社外取締役を前提としたコーポレートガバナンスの改善活動に着手すべきだろう」と提言しています。

まさにその通りであり、上場企業の経営者は、社外取締役を複数選任することを前提(必要条件)としたうえで、社外取締役が3人もいたオリンパスの轍を踏まず、どうすればコーポレートガバナンスを実効的に機能させることができるかという十分条件の模索に力を入れるべき時に来ているのではないでしょうか。また機関投資家もこの点に本気で取り組まない限り、自らの投資パフォーマンスの向上は期待できないのではないでしょうか。

(文責:安田正敏)

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