ブログ詳細

オリンパス社第三者委員会報告書を読んで 門多 丈

2011年12月15日
先週オリンパス社の不祥事件に関して第三者委員会調査報告書が出された。コーポレートガバナンス、内部統制のあり方について示唆に富む内容となっている。
「要約版」を見てのコメントであるが、

1) 巨額の金融資産運用損の発生の背景として、85年以降の円高で大幅に営業利益が減少した際に当時の下山社長が財テクを重要な経営戦略とし金融資産の積極的な運用に乗り出した、との説明がある。このような「戦略」については、取締役会で何故この選択をするのか、メーカーのミッションとしてこのような「戦略」は妥当かの議論が取締役会で行われたかポイントである。取締役の誰かがこのような議論をすべきで、特に社外の独立役員が論陣を張るべきものであったとも思う。

報告書の「内部統制システムの評価」の個所では金融資産の運用にあたる財務部門の独断に触れ、その業務の専門性及び技術性を口実として強いて経営や社内他部門が関心を向けなかったことを指摘している。上述のように重要な経営戦略として財テクを取り上げながら、取締役会では十分監視をしなかったこととなる。また「飛ばし」を隠密裏に行うために歴代の社長や経営幹部の人事も歪められていた可能性が高く、これもコーポレートガバナンス上の重大な問題であった。

2) 報告書では損失の「飛ばし」や「損失の解消」の手口が詳細に分析されている。長期にわたっての複雑操作であるが、この過程で取締役や監査役がどのように監視、牽制すべきであったかについては、いろいろ考えさせられる。監督、監視の面では大いに知恵を働かすべきことを示唆する。

まずは「飛ばし」については、前述のように金融資産の積極的な運用が当社の「戦略」の一つであるとすれば、巨額な資産の入れ替え(投資資産の売却と預金の設定)については取締役会も厳密なチェックをすべきである。「入れ替え」にあたって損益が発生していないことも不自然である。(監査役が会計監査人の協力を得て解明すればかなりのことが分かったはずである)オリンパス社が「飛ばし」を行ったタイミングは、山一證券の倒産の後であり金融資産運用にありうるリスクとして取締役、監査役も警戒すべきことであった。簿外とした海外の投資ファンドの外銀からの借り入れに対し、オリンパス社は自らの預金を担保に差し入れた。このような巨額で異常な取引が取締役会に諮らずに行われたとすれば、取締役会規定などについての内部統制上の不備があったこととなる。「損失の解消」についてはM&Aや配当優先株の買い取りに於いて過剰な対価を支払うことで、原資を捻出した。結果として「のれん」の過剰計上になったが、巨額なのれんの計上は第三者のプロの評価(サード・パーティ・オピニオン)を入手するなど万全を期するべきではないか。現在決算時に繰り延べ税金資産について厳密な評価を求められることと同じ背景である。

報告書では「粉飾決算」に関して監査役、会計監査人の責任についても触れている。監査役会については業務監査が不徹底だったこと、前会計監査人のあずさ監査法人については徹底した監査を実施していれば、「損失分離スキーム」に基づく含み損を抱えた金融商品の「飛ばし」の全貌を発見しえたと批判している。現会計監査人の新日本監査法人についても配当優先株を買い取った時の会計処理(「のれん」の計上)と監査法人間の業務の引継ぎについて、問題ありと指摘している。新日本監査法人は監査行為の妥当性の検証のための第三者委員会を設置したと報道されている。あずさ監査法人は検証委員会を設ける考えはないとのことであるが、職業倫理の面からも自らの姿勢を示すべきと思う。

オリンパス社の下記サイトで報告書の全文などをご覧頂けます。


(文責:門多 丈)

この記事に対するご意見・ご感想をお寄せください。

この記事に対するトラックバック一覧

サイト名: - 2019年6月26日 12時57分

タイトル:
内容:
URL:/blog/blog_diaries/blog/blog_diaries/receive/66/


こちらのURLをコピーして下さい

お問い合わせ先

一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会

ページトップへ