ブログ詳細

事業統合・経営統合と国際競争力 安田 正敏

2011年09月22日
日本の国際競争力喪失の原因が国内予選による消耗戦の結果だという見方は非常に皮相的です。真の原因は、グローバルな競争相手を出し抜くだけの大胆な投資戦略とそれに対する迅速な意思決定を行ってこなかった結果です。それなくしては、どのような事業統合・経営統合も国際競争力の強化につながりません。
本日(9月22日)日経新聞朝刊の一面トップ記事に新日本製鉄と住友金属工業の経営統合が報道されています。また、日立製作所と三菱重工の経営統合も話題になりましたが、その後、三菱重工側はその報道をきっぱりと否定しており、日立側も経営統合についてはそのような話があったことはないとしています。但し、両社とも事業統合については肯定的です。さらに、中小型液晶パネル業界では、東芝、日立製作所、ソニーの3社の事業統合が進められています。

このような最近の事業統合や経営統合は、2010年6月に経産省が発表した産業構造ビジョンに沿ったものだと思われます。その概要によると9つの基本戦略が示されており、その3番目に「収益力を高める産業再編、新陳代謝の活性化」という戦略が挙げられています。その中の1番目の施策として「競争政策(企業結合審査の透明性の確保、中長期・グローバル市場に配慮した企業結合審査への転換)」が挙げられ、事業統合や経営統合を促進する方針を打ち出しています。

この事業統合・経営統合の促進政策の背景には、同じ報告書の中で説明されている「我が国産業は、自国市場に占める企業数が多く、国内予選で消耗戦」、「韓国企業は、国内予選なしで、最初からグローバル市場に向けて大胆で迅速な投資戦略」という考え方があります。実際この20年の間、半導体、鉄鋼、金融など主要な分野で主要な企業の経営統合や事業統合が行われてきました。しかし残念ながら、このような事業統合や経営統合を通じて著しく国際競争力をつけ世界市場のトップにたったという例はあまり聞きません。
その理由について、一橋大学商学部長の沼上幹(つよし)教授が9月16日の朝日新聞朝刊「沼上幹の組織の読み筋」というコラムで鋭い指摘をしています。沼上教授の論点を筆者なりに一言で要約すれば、事業統合・経営統合によって国内予選という消耗戦が社内競争・社内紛争という消耗戦にとって変わっただけだということです。沼上教授は「社内紛争が多発し、その調整が長引けば、当初想定されていた統合メリットは消え去っていく。それどころか、統合をきっかけに、ライバル企業が業績を伸ばす可能性すらある」と指摘しています。

筆者の考えでは、産業構造ビジョンで言われている「我が国産業は、自国市場に占める企業数が多く、国内予選で消耗戦」は非常に皮相的な見方であり、日本の国際競争力が失われた真の原因は、「グローバル市場に向けて大胆で迅速な投資戦略」をとってきた韓国などのグローバルな競争相手を出し抜くだけの大胆な投資戦略とそれに対する迅速な意思決定を行ってこなかった結果だと思います。この点を徹底的に改善しないで、いくら事業統合や経営統合で企業規模を大きくしても、「優秀な技術者や経営管理者たちの必死の調整努力が、何もしなかった競争相手を利する、という皮肉な結果を生んでしまう」(沼上教授)ということになるだけです。

(文責:安田正敏)

この記事に対するご意見・ご感想をお寄せください。


こちらのURLをコピーして下さい

お問い合わせ先

一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会

ページトップへ