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中国企業のコーポレートガバナンスへの疑問 安田 正敏

2011年08月03日
米国など外国の市場に上場した中国企業への不信感が高まっています。それはコーポレートガバナンスやコンプライアンスの欠如を背景とした不正会計への疑惑です。世界経済のリード役となった中国企業のコーポレートガバナンスやコンプライアンスの欠如は世界経済の将来へ大きな不安を残します。またそのような中国企業に投資してきた投資家の姿勢も問題です。
8月1日のブログで、門多丈氏が中国高速鉄道の事故を取り上げ中国の国家のガバナンスの問題点を指摘しておられますが、中国企業のコーポレートガバナンスについても国際的な不信感が高まっています。

6月14日の日経新聞(夕刊)の「ウォール街ラウウンドアップ」というコラムでニューヨークの藤田和明記者が「過去12カ月のIPO銘柄の成績をみるとワースト5のうち4つが中国企業だ」と指摘し、「米国では中国企業への不信感が高まっている」と報じています。その大きな原因は不正会計の問題やその背景にあるコーポレートガバナンスの欠如です。藤田記者は、「IPO直前に提出資料を修正したり役員が辞めたりする例が後を絶たない。問題企業は2ケタに及ぶとされ、米証券取引委員会(SEC)も調査に乗り出した」と伝えています。この問題は米国だけでなくカナダや香港の取引所に上場した中国企業の幾つかも「収入や資産の水増しといった粉飾決算が相次ぎ浮上し、関連企業の株価が急落」と、同紙の香港特派員である川瀬憲司記者も報じています。

このような不正会計の問題は中国に限ったことではなく、米国でも日本でも過去に例があり、それが米国のSOX法や日本ではJ-SOXと呼ばれる金融商品取引法の「財務報告に係る内部統制」を要求する規制につながったことは周知の通りです。しかし、米国や日本の場合、不正会計などの不祥事は極めて例外的事件であったのに対し、中国企業の場合は構造的な現象として現れてきている点が問題です。例えば、川瀬記者の報道によれば、2007年から2010年3月にかけ中国企業159社が「既存の上場企業を買収して経営権を握り、正規の審査を経ずに上場企業となるやり方」で米国に上場しているといいます。これは「裏口上場」と呼ばれておりSECも監視を強化しています。

ここには2つの問題があると思います。ひとつは、中国企業におけるコーポレートガバナンスやコンプライアンスが機能していないのではないかという疑問です。中国経済が世界経済をリードしていく時代の中で、その推進役である企業経営者のコーポレートガバナンスやコンプライアンスに対する意識が不十分であれば、やがて幾つかの重要な中国企業の破綻という事態につながり、それが世界経済に深刻な影響を与えるという事態になりかねないことは、米国のエンロン事件や最近のリーマンの破綻などの教訓から容易に想像できることです。

もう一つの問題は、中国企業の成長性に目を奪われ中国企業のコーポレートガバナンスの欠如、またそれから派生する不正会計への疑惑に対し目をつむってきた投資家の姿勢です。投資リターンに対する競争を意識する投資家にとっては、そのような疑惑が顕在化しない限りは中国企業の成長性を無視することは難しいのでしょうか。そうであれば、投資家にとってコーポレートガバナンスとはいったい何なのでしょうか。非常に根本的な問題を突きつけられているように感じます。

(文責:安田正敏)

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