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金融と原発を巡る規制の問題 安田 正敏

2011年06月18日
金融と原発に対する規制が不十分であったことには共通する原因が存在しています。それらはいずれの業界も政府や行政に対する強い影響力を持っていること、また金融においても原発においても規制の対象が規制当局のブラックボックスになっていたことなどです。
6月2日の日経新聞夕刊の「十字路」というコラムに法政大学の渡部亮教授が、「サブプライムローン危機に起因する2008年の金融危機と東京電力の福島第1発電所の事故には共通点が多い」と指摘しています。筆者も4月13日のブログで、株主の被害はその投資金額に限定されるのに対して、国家経済や国民生活が受ける損害の大きさは限定されないという非対称性が二つのケースに共通していることを指摘しましたが、これとは別に渡部教授は5つの共通点を挙げています。ひとつひとつの共通点についてここでは省略しますが、ここでは5つ目の共通点について少し考えてみたいと思います。

それは規制の問題です。上記のような損害の規模の非対称性が存在するからこそ株主の立場からのガバナンスでは不十分であり国の規制が存在しているわけですが、渡部教授は「金融危機も原発事故も、事前と事後の規制・監督行政が不十分だったのではないか。これが第5の共通点である」と指摘しています。この問題については、6月13日の朝日新聞の朝刊の「波聞風問(はもんふうもん)」というコラムでヨーロッパ総局員の有田哲史記者が「金融と原発の規制」というテーマで論じています。ここでは、なぜ規制・監督行政が不十分であったのかという点に関して、金融も原発も共通する原因があると論じています。

そのひとつは両者とも規制に関する業界の強力なロビー活動の存在です。金融の場合、いったん銀行規制の概要が明らかになると「政治家のアドバイザーに接触し、『これが何を意味するか本当に分かってます?こんなことをしたらビジネスが外国に逃げていきますよ』などといって代替案を示す」というロンドンの金融関係者の話を有田記者は紹介しています。日本の原発においても東京電力をはじめとする電力業界の原子力行政に対する強い影響力、また昨日6月16日の当会の勉強会においても指摘された電力業界の膨大な広告宣伝費によるマスコミへの強い影響力など、金融の規制の失敗と共通する点が存在しています。

もうひとつの共通の原因は、「技術革新の速度に規制当局者の知識がついて行けない」という側面です。金融も原発も規制当局者がその中で何が起こっておりどのようなリスクが存在しているかを十分に理解していなかったという事実です。つまり、いったん事故が起きると国の経済と国民の生活に重大な影響を与えるシステムが規制当局にとってブラックボックスになっていたことです。したがって規制の内容についても規制当局は業界の知識に頼らざるを得ない面があり、これが前者のロビー活動の効果を高める結果になったのだろうと思います。

これらの原因を取り除きより効果的な規制を行うことは容易ではありませんが、このような規制の改革において忘れてならない視点は規制当局と業界の独立性の維持と徹底した情報公開であると思います。この視点をもってこれからの原子力行政を見ていくことが重要だと思います。

(文責:安田正敏)

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