ブログ詳細

74年ぶりの生命保険会社の誕生とそのコーポレートガバナンス 安田 正敏

2011年03月10日
74年ぶりに誕生した生命保険会社であるライフネット生命保険は、古い体質の生命保険業界に対し新しいビジネスモデルで挑戦していますが、同時に、コーポレートガバナンスの実践でもベストプラクティスを示してくれるものと期待しています。
今年3月2日の実践コーポレートガバナンス研究会の第14回勉強会は、ライフネット生命保険株式会社(以下、ライフネット生命保険と呼ぶ)の代表取締役社長、出口治明氏を講師に招き、その設立の理念とそれにもとづいた企業活動とコーポレートガバナンスについて話していただきました。出口社長の了解を得られたため、その概要をコーポレートガバナンスについての話を中心に紹介します。

コーポレートガバナンスは会社の企業文化と深く関連しているので、出口社長はライフネット生命保険の起業の経緯とその理念についての話から始めました。その起業の理念とは「生命保険料を既存の業界の半分にして子育てをする20代から30代の若い世代を応援したい」ということです。そのために、最初に薦める商品は、複雑な仕組の「特約」を捨て「単品」のみにするなど、できるだけ人々が理解しやすい簡単な商品構成とすることを同社の経営指針であるマニフェストに明記しています。また、同じマニフェストには、「私たちは生命保険料は、必要最小限以上、払うべきではないと考える。このため、さまざまな工夫を行う」と記しています。経営の理念としては、「顔の見える会社にする」こと、人材の採用に当たっては、「学歴、年齢、国籍などからフリーにすること」等をうたっています。

創業にあたって、出口社長と岩瀬副社長は資金集めを行ったわけですが、その際、「人脈に頼らず、この理念とビジネスモデルを理解してくれる出資者を探した」ということです。その努力の結果2008年5月18日の開業までの2年間に138億円の資本金を準備できました。

創業に際してのこのような経緯を通して分かることは、ライフネット生命保険が極めて明確な目的を持ち、それを達成するために分かり易い商品、透明性のある組織、人的なしがらみのない投資家など、一言でいえば「分かり易いクリーンな経営」を目指しているということです。これが、ライフネット生命保険のコーポレートガバナンスのバックボーンになっています。出口社長の言葉を借りれば「隠すからカビが生える」ということです。

具体的には、取締役会の構成は、議長である社長、常勤の取締役(3名)、非常勤の社外取締役(3名)の計7名、監査役会の構成は、常勤監査役1名と3名の社外監査役からなっています。この体制の下に、徹底した情報公開に基づく経営を行っています。また、「コンプライアンスとは法令遵守というだけでなく、より本質的には、常に変わる『社会の常識』に会社の行動が一致しているかどうかということである」という考え方でコンプライアンスを行っており、それによって会社のレピュテーションを上げマーケティングに生かしているということです。

これに対して、従来の相互会社という組織は、基本的にコーポレートガバナンスが効きにくい組織であると指摘しています。なぜなら、相互会社の社員総代が経営者を選ぶが、その社員総代は社長が選ぶ仕組みになっているからです。これでは相互牽制の機能はなかなか働きません。

74年ぶりに誕生した生命保険会社であるライフネット生命保険は、5年間で黒字転換を図る計画で、まだ赤字の状態ですが、この新しい理念に基づく営業活動(インターネット販売)の結果、開業以来、新規契約は月8%以上の伸びで急成長しています。古い体質の生命保険業界に対し新しいビジネスモデルで挑戦しているライフネット生命保険は、コーポレートガバナンスの実践でもベストプラクティスを示してくれるものと期待しています。

(文責:安田正敏)

この記事に対するご意見・ご感想をお寄せください。


こちらのURLをコピーして下さい

お問い合わせ先

一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会

ページトップへ