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MBOを巡る争点 安田 正敏

2011年03月01日
MBOによる上場廃止が続いています。MBOを行うには様々な理由がありますが、MBOによって会社の重要な経営課題が解決するものではないということを経営者は肝に銘じておく必要があるでしょう。
2月3日の日経新聞朝刊は、日本でMBOが本格化した2005年以降の6年間に64社がMBOを行い、上場を廃止していることを報じています。その主たる理由は、「株価低迷などで厳しさを増す株主の目」や「上場に伴うコスト」から逃れ、「短期的な株価変動や株主への利益配分などにとらわれず自社が持つ強みを長い目で育てられる」こと、また「大胆なリストラ策に踏み切る際にも意思決定が早まる」ことなどを挙げています。さらに、海外の取引所に乗り換えるため、MBOで東京証券取引所への上場を一度、3月に廃止する予定のセキュアード・キャピタル・ジャパンのような、グローバルな視点にたった行動も紹介されています。

一方で、東京証券取引所の斉藤惇社長は、2月22日の記者会見で、「2009年以降にMBOで上場廃止した17社のうちIPO後の初値を上回る株価でMBOを実施した会社はわずか2社である」という調査結果を示しています。そのうえで、「(上場時に)高値で株主に買ってもらって、増資もし、リスクマネーを取り、株が半値くらいに落ち、株主がうるさくて事業を出来ないので上場を廃止すると・・・、心情的には、非常に不快だ。投資家を愚弄していると思う」としてこれらのMBOによる市場撤退に対し強い不快感を示しています。

これらの報道から筆者が感じる問題点をいくつか指摘したいと思います。

まず、MBOの結果、「株価低迷などで厳しさを増す株主の目」から逃れられたと経営者が感じているとしたら、会社の持続性を保証するコーポレートガバナンスに対する意識が弱まる可能性が懸念されます。MBOを支援した外部のファンドやMBO向け融資を行った銀行は、MBO後の会社のコーポレートガバナンスについて特に注意する必要があります。

また、「上場に伴うコスト」という面では、斉藤社長も、「我々がそれを改善したら(上場廃止が)少なくなるなら、考慮する。まず調査したい」としています。ただ、この上場維持コストは金商法の内部統制やIFRSの導入という取引所単独ではどうしようもない制度的側面があります。特に、IFRSへの移行に伴う負担は中小の上場企業には大きなものになってくることは間違いありません。

さらに、MBOの際の買取価格ついて、株の買取価格は市場価格に対し30%から50%のプレミアムがつくにも拘わらず、なおIPOの初値を下回っているという問題は、実はIPOの際のプロセスにも大きな問題があるためではないかと筆者は思っています。特にマザーズやジャスダックなどの新興市場では、取引所の上場基準、幹事会社の評価プロセスと株価算定プロセス、新規上場会社内部体制評価などのIPOを巡るプロセスに利益相反問題も含めた問題があり、株価が実態より非常に高く評価されたためではないかと、筆者は感じています。

MBOの買取価格の問題は、経営者の利益相反というもうひとつの問題を抱えています。MBOに際して経営者は既存株主の負託を受けた者として行動しなければならない反面、できるだけ安い株価で会社を買収したいという衝動に駆られます。この点についても斉藤社長は、「(MBO決議)に至るまでの投資家への説明や、手続上に不正がないか、MBOのプライシングに不正がないかは、当然チェックしないといけない」と指摘しています。

いずれにしても、「上場維持コスト」という点を考えると成長資金を必要としなくなった企業がMBOによる上場廃止を考えることは理解できますが、MBOによって会社の重要な経営課題が解決するものではないということを経営者は肝に銘じておく必要があるでしょう。

(文責:安田正敏)

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