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2023/01/17

令和4年12月15日公表 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」の改訂案に関する意見

令和5年1月15日
一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会 理事会
代表理事 門多 丈


我々実務家が所謂JSOXとして慣れ親しんできた内部統制報告制度であるが、その形骸化リスクについては以前より、各社の現場において指摘されてきた。なぜなら運用開始当時より、少なからぬ経営陣・幹部が、本制度をコスト案件もしくは監査マターとしての限定的理解に留め、コーポレートガバナンス全体における位置づけの正しい理解が、必ずしも十分に広がらなかったためと推察する。結果、足元でも内部統制報告書提出後に訂正報告書が頻出し、現在に至っている。今回の改訂案では顕在化したリスクに対する重要論点が補筆され、当研究会としてもその方向性に賛同するものである。そして14年振りの改訂を受けるに際し、本制度の実効性ある運用と、コーポレートガバナンスに係る各種の法令やガイドライン等との将来的な統合を期待し、以下意見を述べる。


「1. 内部統制の基本的枠組み 1.内部統制の定義」について

<意見>

内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスをいう。さらに内部統制は、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される。

 これらの内部統制の目的は相互に関連しており、報告、特に財務報告に係る信頼性を確保するための内部統制の整備は業務の有効性及び効率性を高め将来の企業価値を向上させることを認識すべきである。したがって、これらに係る支出はコストではなく将来の企業価値向上への投資と考えるべきである。

<理由>

  1. 本改訂案の「経緯」で述べられた内部統制報告制度の実効性に関する以下のような懸念は内部統制の形骸化を示すものです。
  • 内部統制の評価範囲の外で開示すべき重要な不備が明らかになる事例
  • 内部統制の有効性の評価が訂正される際に十分な理由の開示がない事例が一定程度見受けられる
  • 経営者が内部統制の評価範囲の検討に当たって財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性を適切に考慮していないのではないか
  1. 2007年215日の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(以下、「実施基準」という)において述べられている実施基準の位置づけに関する以下の記載にこの内部統制の形骸化の原因が見て取れます。(下線は当研究会)

「既述したとおり、本来、内部統制の構築の手法等については、それぞれの企業の状況等に応じて、各企業等が自ら適切に工夫して整備していくべきものと考えられるが、それだけでは実務上の対応が困難であるとの意見が多く出されたことから、実施基準においては、各企業等の創意工夫を尊重するとの基本的な考え方を維持しつつ、財務報告に係る内部統制の構築・評価・監査について、できるだけ具体的な指針を示すこととした。」

この文章の中の「本来、内部統制の構築の手法等については、それぞれの企業の状況等に応じて、各企業等が自ら適切に工夫して整備し」、「各企業等の創意工夫を尊重するとの基本的な考え方を維持」する努力を怠った結果が、「経緯」で述べられている懸念(内部統制の形骸化)を引き起こしているものと考えます。つまり、そのような企業努力を怠り、「実施基準」に形式に対応した結果が内部統制の実効性を損ねたものだと思います。

  1. 上記の問題の原因は、ひとえに経営者および取締役会の内部統制に対する認識と姿勢にあると考えます。それは内部統制についての理解にも起因しています。財務報告に係る内部統制の整備を「実施基準」に対応する法規制対応と考えそれに係る支出をコストと考えることに問題があると考えます。
  2. 財務報告に係る内部統制の整備において業務プロセスを再定義し、業務をフローチャートで見える化し、リスクを棚卸し評価することは、会社のリスクをコントロールし業務の無駄を発見するなど内部統制の目的のひとつである「業務の有効性及び効率性」を向上させ企業価値の向上に寄与します。
  3. 財務報告に係る内部統制を上記のように再認識し、その整備に係る支出を単なるコストではなく将来の企業価値向上のための投資であると再定義することにより財務報告に係る内部統制の整備・運用への経営者および取締役会のコミットメントを強める一助になるのではないかと考えます。
  4. 財務報告に係る内部統制をこのように再定義することにより、企業価値の向上を謳うコーポレートガバナンスコードとの整合性も保たれるのではないかと思います。



「1.内部統制の基本的枠組み- 5.内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理」について

<意見>

内部統制は、組織の持続的な成長のために必要不可欠なものであり、ガバナンスや全組織的なリスク管理と一体的に整備及び運用されることが重要である。ガバナンスとは、組織が、顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みであり、全組織的なリスク管理とは、適切なリスクとリターンのバランスの下、全組織のリスクを経営戦略と一体で統合的に管理することである。内部統制は、全組織的なリスク管理とともにガバナンスを支える重要な役割と機能をもつ(下線は当研究会)。内部統制、ガバナンス及び全組織的なリスク管理は、組織及び組織を取り巻く環境に対応して運用されていく中で、常に見直される。

<理由>

  1. 社外外取締役や監査役、その他のコーポレートガバナンスの実務を担う人達からコーポレートガバナンスと内部統制の関係についての質問をよく受けます。
  2. 内部統制の基本的枠組みで参照しているCOSOレポート(Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission, May 2013, Internal ControlIntegrated Framework)では、内部統制をガバナンスの基盤として位置付けています。
  3. コーポレートガバナンス構築の世界的な標準モデルとなった3線モデルでも、欧州会社法制定当初からコーポレートガバナンスを支える機能として内部統制とリスクマネジメントを挙げています(Federation of European Risk Management Associations (Ferma) & European Confederation of Institutes of Internal Auditing (ECIIA). 2010. Guidance on the 8th EU Company Law Directive article 41
  4. このようなことから、「内部統制は、全組織的なリスク管理とともにガバナンスを支える重要な役割と機能をもつプロセスであることを明示」することは、国際的な潮流に合致し、我が国の内部統制の基本的枠組みの適切な理解に役立つと思います。

 

「2.財務報告に係る内部統制の評価及び報告 2.財務報告に係る内部統制の評価とその範囲(3) 監査人との協議」について

<意見>

ガバナンス機関において、監査に責任を有する役員(監査役等)は有価証券報告書における「事業等のリスク」の記述内容と、本制度で識別された重要業務プロセスにおけるリスク、およびKAM項目間の整合性を確認し、その所見を取締役会と共有し、改善プロセス推進の助言を行うべきである。

<理由>

  1. 外部監査人によるKAM運用開始は、財務諸表監査における重要リスクと、それらへの監査対応状況を、個別具体的に開示する重要な契機となりました。
  2. 一方、内部統制報告制度は、会社側が財務諸表作成過程におけるリスクを適切に識別し、それらに対するコントロールの強度を客観的に評価することを基本としますが、これら二つの制度には当然に強い関係性が確保されるべきと考えます。
  3. さらに開示内容の一層の充実が求められる有価証券報告書において、特に「事業のリスク」の記述内容との関係性も重要です。
  4. 監査役等は、三様監査の場面においてリーダーシップを発揮し、内部統制報告制度における会社側評価者(内部監査部門等)と、KAMに責任を持つ外部監査人とのコミュニケーションを促進し、それぞれの活動の整合性を都度確認することにより、各制度間の有機的な運用について、取締役・経営陣に対する有効な助言が可能になると考えます。

このような三様監査活動を通して、堅牢な内部統制の構築・運用に対する動機付けを行うことは、コーポレートガバナンスの高度化の方向性に一致すると思います。


「一. 経緯/内部統制部会の審議における問題提起/会社法と金融商品取引法の内部統制の統合可能性」について

<意見>

 各社は内部統制報告制度における全社統制評価のチェックリスト等を「非財務情報と内部報告」にも拡張し、かつ個社毎に最適化することで「報告の信頼性」評価にも堪えうるものとすべきである。 そして内部統制部会において問題提起された「会社法と金融商品取引法の内部統制の統合可能性」に対して、率先して備えるべきである。

<理由>

  1. 現在多くの会社では、内部統制報告制度の全社統制評価用チェックリストとして、平成233月末に公表された実施基準における例示(42項目)を、あたかも所与として使用していると思います。
  2. 当該例示は内部統制の各要素に沿って網羅性が確保されていますが、個社で扱うには抽象度が高く、かつ「財務報告の信頼性」に焦点が置かれています。
  3. 今回の改訂にて、内部統制の基本的枠組みが最新のCOSOモデルに準拠したことを契機に、全社統制評価チェックリスト等を個社毎に最適化するとともに、従前の「財務報告の信頼性」から「報告の信頼性」に統制目標を拡張することで、金商法/内部統制と会社法/内部統制システムの構築・運用・評価を一体化して行うための先鞭がつけられると考えます。
  4. 各社が率先して内部統制報告制度を幅広に活用することにより、内部統制部会での問題提起に対しても、円滑な準備が可能になると考えます。これは同時に本来の制度主旨である「内部統制の構築の手法等については、それぞれの企業の状況等に応じて、各企業等が自ら適切に工夫して整備していくべきもの」にも合致すると思います(下線は当研究会)。



以上

2022/12/05

「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に関する意見及び質問

令和4年12月5日
一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会 理事会
代表理事 門多 丈



欧米で進展しているサステナビリティ開示基準の統合が進んでいる環境を踏まえて、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループが、長い時間をかけて審議を行った結果から出た提言を受けて、今般の「企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正案(以下、改正案)」公表に至ったことを鑑みると、今般の改正内容の大枠には異論はない。開示全体の方向性は、2021年6月改訂のコーポレートガバナンス・コードの趣旨とも合致すると認識している。ただし、以下の論点に関して、意見及び質問を提出する。


改正案1 サステナビリティに関する企業の取組みの開示

1.サステナビリティ全般に関する開示(意見)

有価証券報告書に、「サステナビリティに関する考え方及び取組の記載欄を新設し、「ガバナンス」及び「リスク管理」については、必須記載事項とし、「戦略」及び「指標及び目標」については、重要性に応じて記載を求めることとします」とある。この記載では、サステナビリティ経営において何を重要と考えるかを企業の判断に任せ、自主性を尊重する趣旨とも把握できるが、他方、既に多数の企業が、サステナビリティ基本方針を設定し、サステナビリティ経営を推進していること、及び、主に海外機関投資家からサステナビリティ開示に関する一層の開示充実が求められている現状を鑑みると、4つのフレームワークの開示方法に格差をつけることは、かえって投資家からマイナスの印象を喚起する懸念があると考える。従って、4つのフレームワークに関して全て必須の開示とすべきである。

2.将来情報の記述と虚偽記載の責任及び任意開示書類の参照(意見)

「企業内容等の開示に関する留意事項」において、将来情報を含む非財務情報の適切性や虚偽記載リスクに対する考え方が具体的に示されたことは、ガイドラインとして歓迎したい。これを受けて各社は、虚偽記載リスクの増加を抑えるための統制活動を高度化し、かつ積極的に開示すべきである。例えば執行側の責任として、非財務情報の生成から開示に至るプロセスについて、本ガイドラインが求める経営者の認識、前提、仮定等の合理性を織り込みながら、分かり易く記述すべきである。また取締役会等ガバナンス機関の責任として、上記プロセスに対する規律付けの実績を付記し、当該統制活動に対する信頼性を確保すべきである。開示ガイドラインはより詳細な情報の参照先として、統合報告書等を示しているが、各社は当然にこれら任意開示書類の信頼性に対しても、従前に増して留意すべきである。同時に各社は今回の内閣府令改正を前向きに捉えて、今後想定される非財務情報への法定監査義務化にも備えるべきである。

3.人的資本、多様性に関する開示(質問)

女性活躍推進法等に基づき、「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」を公表している会社及びその連結子会社に対して、これらの指標を有価証券報告書等においても記載を求めることとします。とある。これに関して、上記の女性活躍推進法等とあるが、この「等」とは具体的に何を指しているのかを確認したい。

2022年7月に改正された女性活躍推進法では、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」と「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」の2つの大項目にある10以上の数値目標から各々1項目以上を選定し、開示する義務がある。他方、今般の改正案では「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」のあえて3項目のみの開示を取り上げているが、その趣旨や理由を確認したい。


改正案 2  コーポレートガバナンスに関する開示

1.内部監査の実効性(デュアルレポーティングの有無等)(意見)

内部監査におけるデュアルレポーティングの有無等を積極的に開示することは、コーポレートガバナンス・コードの改訂主旨(監査の信頼性確保)にも整合する。一方、内部監査の実効性確保のためには、(1)全ての監査対象からの独立性、(2)内部監査人の専門性(質)、(3)内部監査人の員数(量)等、複数の要素が充足されることを前提とする。デュアルレポーティングの構築・運用は専ら(1)に対応するが、各社は(2)および(3)についても積極的に開示すべきである。(2)については内部監査人の選任基準、職歴、平均経験年数、積極的資格等の取得状況など、また(3)については従業員100人あたりの内部監査人数などが考えられる。特に(3)については内部監査人が5名以下の上場会社も少なくなく、当該情報の積極開示が、内部監査人増員のきっかけになることを期待する。


以上

2021/06/21

コーポレートガバナンス・コード改訂、パブリック・コメント集計結果

先ごろ東京証券取引所よりコーポレートガバナンス・コード改訂に係るパブリック・コメント集計結果が公表されました。コメントの延べ総数は633個を数え、本改訂に対する各界からの高い関心が伺えます。 
>> パブリックコメント集計結果(東証サイト)

当研究会も既にご案内のとおり、本年428日付で「コーポレートガバナンス・コード改訂案に対するコメント」と題し、意見提出いたしました。

当研究会からの各コメントに対する主催者側の考え方につき、上記集計結果の項番1111112260319478および531にて、それぞれご確認いただけます。また幸いにも巻末の「提言者」一覧の筆頭に、当研究会名が記載されましたことも付記させて頂きます。 

本邦のコーポレートガバナンスの更なる高度化のため、次回改訂に向けて皆様のご支援を引き続き宜しくお願い申し上げます。

2021/04/28

コーポレートガバナンス・コード改訂案に対するコメント

 2021年4月28日
一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会

代表理事 門多 丈

コーポレートガバナンス・コード改訂案に対するコメント

 

今回の改訂案では、新たに5つの補充原則が新設され、合計83原則からなる構成となった。特にグローバルの喫緊課題であるサステナビリティ経営実現に向けて、取締役会の機能発揮に対する期待が強いメッセージと共に込められている。また取締役会と並んで監査役会の重要性にも踏み込み、我が国のガバナンス機関設計制度との親和性もより高くなっている。更に上場子会社にまつわる諸課題を整理するとともに、プライム市場上場会社に対しては一段高い規律を求めるなど、諸制度と合理的な整合を取りながら、我が国のガバナンス高度化の方向性を示すものになっている。 

 本改訂コードの運用にあたって、その趣旨が十分に利用者に浸透することを願い、以下のコメントを当研究会の意見として表明する。

 

1.補充原則2-4①

 本補充原則は、取締役会の多様性を確保することを目的に、企業の中核人材の登用等で女性や外国人、中途採用者の登用を積極的に推し進めるべく新設されたものと理解している。現在の各企業の取締役会の多様性が、主に社外人材の登用で進められていることから、社内の中核人材の多様性が将来的に取締役会の多様性に繋がる観点からは、賛成できる原則である。

 その一方で、後段に記載されている「社内環境整備方針」という文言が極めて抽象的であり、企業によりその対応がかなり異なることが懸念される。よって当該補充原則を運用する際の実務指針として以下を提言する: 

【提言】

  • 上場会社は当該補充原則の運用に際して、「人材育成方針と社内環境整備方針」を「人材採用と育成の基本的な考え方とその方針」等、より具体的な文言に落とし込み、社内での徹底とエンゲージメントに備えるべきである。

 

2.補充原則3-1②

 本補充原則の後段は、プライム市場上場会社の株式について、海外機関投資家が売買を活発に行う市場であるとの前提に立ち、企業からの情報発信につき英語での開示・提供を進めるものである。

 しかしながら、コード記載にある「開示書類のうち必要とされる情報」は誰が必要としているのか明示されておらず、また開示書類の内容も記されていないことから、各社における実務指針として以下を提言する: 

【提言】

  • プライム市場上場会社はグローバルでのエンゲージメント活動に備えるべく、英語による開示対象およびそれらに必要とされる情報を自ら定義し、その網羅性や十分性を確保すべきである。

 

3.補充原則3-1③

本補充原則は、今回の改訂案で新たに新設された原則であり、上場会社が自社のサステナビリティを重要な経営課題として認識し、この課題について積極的・能動的な対応を一層進めていくことを推し進めるものであり、その新設には反対するものではない。

 しかしながら、プライム市場に上場予定の会社にあっても、TCFDが要求している4つの項目(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)の全てにつき、執行側で態勢を整備し、取締役会の承認を経て開示可能な状況にある企業は少数に留まり、加えてTCFDが開示推奨している気候関連リスクと機会が与える影響を評価するための「シナリオ分析による開示」まで至っている企業は極めて少ない現状にある。 

従って原則でTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を拙速に進めることには、かえって企業の負担感の重さから、中途半端な開示を進める懸念がある。この現状を踏まえるとともに、本補充原則のSDGs上の重要性を考慮し、実務指針として以下を提言する: 

【提言】

  • プライム市場上場会社は、TCFD等に沿った開示に先立ち、足元の現状から到達すべきゴールまでの工程表を作成し、年度毎に「コンプライ・オア・エクスプレイン」を経て「コンプライ・アンド・エクスプレイン」を自主的に行うことにより、その改善プロセスと結果を継続的に開示すべきである。

 

4.補充原則4-11

 取締役会のスキル・マトリックスの開示を求める今回の改訂案は、取締役会の実効性確保に向けて大きな前進である。これにより各社はそれぞれの中長期戦略に沿って、独自の取締役会の構造を再構築することになる。 

 取締役会構成員の知識・経験・能力のバランスは各社毎の判断に委ねられるも、改訂案では唯一「独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである」旨、具体的な必要条件を示している。しかし「経営経験」のみでは一般に社長等を意味するものとして理解される可能性があり、候補者の属性を狭めかねない。

 これに対する解釈指針は、同時に開示された「参考1:コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について、202146日付」(以下、参考1)の2頁脚注に漸く求めることができる(CEO等の経験者に限られるという趣旨ではない)。

 当該補充原則は取締役会の構造設計上極めて重要であり、誤解なきよう本コードが運用されるための実務指針が必要と思われる。 

 従前より本コードでは、取締役会および監査役会に対する対語として、経営執行に責任を有する者を「経営陣幹部」と称している(例:補充原則3-2②(ii))ことを実務上は援用すべきである。

 更に取締役には、個社およびグループの内部統制システムに対する構築・運用責任があることをスキル・マトリックスに反映し、それに見合う独立社外取締役人材として、当該システムの有効性評価に実績のある監査役等経験者の選任も推奨したく、以下の実務指針を提言する: 

【提言】

  • 上場会社は中長期戦略に照らして、取締役会として求められるスキル・マトリックスを作成し、適切な人材配置を行うべきである。
  • 独立社外取締役の選任に際しては、経営陣幹部や監査役等として実績のある人材を含め、スキル・マトリックスの充足を図るべきである。


5.補充原則4-13

当研究会は第一次改訂時より一貫して、「内部監査の制度化」に関する提言を行ってきた。今回の第二次改訂プロセスでは特に、「監査に対する信頼性の確保及び内部統制・リスク管理」に関して、フォローアップ会議での活発な議論があり、内部監査部門を「三線モデル」と「dual reporting line」の枠組みの中に位置付けることについてのコンセンサスが、有識者の間で形成された。結果、補充原則4-3④にてリスク管理体制における取締役会と内部監査部門の関係性が明示され、更に補充原則4-13③では取締役会と共に監査役会もその機能発揮のため、内部監査部門がこれらに直接報告を行う仕組みの構築の必要性が盛込まれた。このことは当研究会の提言と方向性を一にするものであり、改訂作業にご尽力いただいた関係各位に御礼申し上げたい。

 一方、コード改訂案本文では、内部監査部門の経営陣幹部からの独立性については必ずしも明示的に表現されず、参考1の5頁「(2)監査に対する信頼性の確保及び内部統制・リスク管理」の中で、漸くその箇所が確認できる。各社においてコードへの対応状況を考察する際、参考1まで仔細に参照せず、コード本文のみが独り歩きする可能性が残ることより、当研究会は従来の「内部監査の制度化」提案を実務指針として、以下のとおり再提言する: 

【提言】

  • 上場会社において、監査委員会、監査等委員会及び監査役会は内部監査部門に対して、監査機能上の指揮命令権を確保すべきである。
  • 上場会社は、第3線として内部監査部門を明示し、またガバナンス機関において監督・監査責任を担う監査委員会、監査等委員会及び監査役会は内部監査に関する監査機能上の重要事項の意思決定に責任を持ち、その監査活動に対して適切に指揮命令を行うべきである。
  • ここで内部監査に関する監査機能上の重要事項とは、内部監査部門長の任免、内部監査規程の承認、内部監査計画の承認等を指す。

 以上

2021/01/19

「内部監査の制度化」に関する再々提言

 令和3年1月12日
一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会 理事会

代表理事 門多 丈

 内部監査の制度化

 第3のディフェンスラインである内部監査の強化は、不祥事に対する有力な打ち手の一つとして認識されるも扱いは任意監査であり、監査役等監査や外部会計監査に比べてその位置づけが制度的に十分に担保されていない。しかし近年増加傾向にある監査等委員会設置会社では内部統制システムに依拠する監査を前提に、当該委員会が自身の監査資源として内部監査部門へ指揮命令を行い、事実上組織監査として当該機能を制度監査に組み込んでいる。この運用は指名委員会等設置会社でも同様である。

 一方上場企業の多数が選択する監査役会設置会社では、監査役会は経営者の職務執行の監査の一環として経営者の内部統制の整備・運用を監査する立場にあり、監査役会が内部監査部門を指揮命令することに抵抗が生ずる。結果、監査役会と内部監査部門の連携は情報共有レベルに留まり、監査役等監査の品質において他の二者と比べて異質となるリスクが生ずる。

 ここでガバナンス3類型間の監査役等監査の品質の等価性を担保し、かつ内部監査に制度的位置づけを付与すべく以下の改訂を提言する。

 <コーポレートガバナンス・コード改訂補充原則4-13③案>

  上場会社において、監査委員会、監査等委員会及び監査役会は内部監査部門に対して、監査機能上の指揮命令権を確保すべきである。

 上場会社は、第3のディフェンスラインとして内部監査部門を明示し、また統治機関において監督・監査責任を担う監査委員会、監査等委員会及び監査役会は内部監査に関する監査機能上の重要事項の意思決定に責任を持ち、その監査活動に対して適切に指揮命令を行うべきである。

 ここで内部監査に関する監査機能上の重要事項とは、内部監査部門長の任免、内部監査規程の承認、内部監査計画の承認等を指す。

再々提言に際して

 当研究会は平成30年1月に第一次コーポレートガバナンス・コード改訂プロセスに合わせて「内部監査の制度化」に関する提言を実施、改訂版への反映は見送られるも、同年12月に再提言を行うなど一貫した立場をとってきた。この間、アカデミアや経済界からもガバナンス機関と内部監査部門の関係性について、積極的な発言が目立つようになってきた。

 更に現在進行中のコーポレートガバナンス・コードの再改訂プロセスを進めるフォローアップ会議においても、主要な残課題の一つとして「監査に対する信頼性の確保」が取り上げられている。特に平成31年4月に公表された同会議の意見書(4)にて、「内部監査が一定の独立性をもって有効に機能するよう独立社外取締役を含む取締役会・監査委員会や監査役会などに対しても直接報告が行われる仕組みの確立を促すことが重要である」と明示されたことは、当研究会の主張と軌を一つにするものとして心強い。 

 上記意見書では内部監査部門の報告先として、ガバナンス機関に監査役会も含まれるとの整理がなされ、本邦の一部に残る監査役会と内部監査部門の報告関係に関する議論に終止符を打つものとしても期待される。 

 ガバナンス機関における監査の信頼性を確保するためには、トップマネジメントを含む全ての監査対象からの独立性の確保と、高い専門性の維持が不可欠である。同時に、広がりを見せる監査スコープに対応するための適切な監査資源の確保も重要である。これらの諸条件を満たすためには、三様監査を従来の連携関係から監査役等によるリーダーシップのもと、監査機能上のプロフェッショナル・パートナーシップとして再定義することを新たに提唱したい。それはガバナンス機関における監査機能の高度化にも直接に資するものである。 

 その為にも三様監査中、唯一任意監査として残る内部監査をコーポレートガバナンス・コード等にて制度化し、ガバナンス機関における監査機能の一翼を担う重要機能として明示すべきである。具体的には三線モデルにおける位置付けを明確にすると同時に、所謂デュアルレポーティングラインを構築し、ガバナンス機関における監査役会等の監査機能との関係性を確固たるものにすることである。詳細は冒頭に再々掲した当研究会の提言を参照願いたい。 

 ガバナンス機関における監査機能の高度化を問う重要イベントとして、「監査上の主要な検討事項」(KAM: Key Audit Matters)が2020年4月1日開始事業年度より適用された。更に2022年4月に創設される東証のプライム市場では、時価総額や利益基準等の量的ハードルと共に、より厳しいガバナンス基準の適用という質的ハードルも設定される。後者を支える新改訂コーポレートガバナンス・コードには、前述のフォローアップ会議における残課題に対する解答が具体的に盛り込まれることを期待し、ここに当研究会の「内部監査の制度化」に関する提言を再々掲する。

以上

お問い合わせ先

一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会

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