情報発信

提言

2020/03/05

東京大学未来ビジョン研究センターの政策提言に関する意見

「内部監査の制度化に関する提言」(20181月)の公表に続き、当研究会は当該テーマを中心としたシンポジウムを昨年10月に開催、監査役会等を含むガバナンス機関と内部監査部門との新たな関係性について広く議論を進めてまいりました。幸い当該テーマへの関心は産官学に広がりを見せ、昨年12月には東京大学未来ビジョン研究センターから「日本企業における内部監査機能の強化に向けた政策提言」が公表されています。しかし共通性の高いテーマを扱いながらも、監査役(会)の役割に対する理解などいくつかの重要な論点において、彼我の間には距離感があります。今回この距離感が持つ意味を考察するべく、当研究会としての意見を纏めここに公表いたします。

 

東京大学未来ビジョン研究センターの政策提言に関する意見

 2020年3月5日
一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会 理事会
代表理事 門多 丈

201912月に東京大学未来ビジョン研究センターより日本企業における内部監査機能の強化に向けた政策提言」(以下同提言)が日本語および英語でWEB公開され、213日付で(一社)日本内部監査協会のホームページでも紹介されている。同提言は日本の内部監査機能の高度化という文脈において、内部監査人を20人以上擁し統合報告書を作成している49社をサンプルとする実証的研究を基に、今後内部監査機能が進むべき方向性としてTrusted Advisorを標榜し、三線防衛モデルの確立やガバナンス機関と経営執行に対する二重レポート・ラインの確保の重要性等について、懇切に説明している。

同提言は当研究会が先般のコーポレートガバナンス・コード改訂時にパブリック・コメントとして公表した「内部監査の制度化に関する提言」(下記参照)と関連性が高く、日本を代表するアカデミアからも積極的にオピニオンが表明される機運は歓迎したい。

しかし現場のガバナンス機関において日々経営執行を監視・監督する立場からみて、同提言における特に以下の2点については議論が必要である:


 1.「攻めのガバナンス」と「守りのガバナンス」という類型化の是非

同提言では内部監査の使命ないし期待役割として、「価値の保全/コンプライアンス等の監査/守りのガバナンス」および「価値の向上・創造/業務の有効性・効率性監査、ビジネスモデルや経営戦略に係るリスク監査/攻めのガバナンス」という2類型を明示し、内部監査機能の高度化プロセスにおいて前者から後者をもカバーすべきとしている。

一般に新規事業進出等の「攻め」の場面における経営判断において、ガバナンス機関がまず考慮すべきは、固有リスクの高まりに応じて当該社のリスク許容度と残余リスクの兼ね合いを吟味し、統制力をどこまで高めるかというリスクマネジメントである。それは戦略推進による機会獲得とセットで議論されることが常である。「攻め」の局面においても固有リスクの一要素としてコンプライアンスリスクも当然高まることを我々は想定し、内部統制の見直しを進める。すなわち同提言の様にコンプライアンスリスクだけをとっても、それを「守り」の局面に限定することには難がある。

更に業務の有効性・効率性確保はCOSO内部統制の目的の一つであると同時に、トップラインの成長が十分に望めない中、イノベーション創出に苦闘する日本企業にとって、従前の業務プロセス改善を超えたオペレーショナル・エクセレンスとして、既存事業のスコープの中で収益を確保するための切り札でもある。また当該事項は内部統制システムの重要な構成要素の一つとして会社法施行規則第1001項第3号においても掲げられ当然に監査役監査の対象であり、同提言が示唆する「攻め」のみにグルーピングしきれない。このことは後述する同提言における監査役(会)の役割の理解とも衝突する部分である。

ガバナンスの現場において「攻め」と「守り」は表裏一体・不可分であることは明白である。「攻めのガバナンス」という用語は、我が国の経済が長期デフレ状況から脱却するため、各企業が積極的にリスクを取りに行く経営姿勢に転換するための後押しとして国内で使うには極めて重宝ではあるが、その対語としての「守りのガバナンス」とともにグローバルで通用するかは検討が必要である。 

2.ガバナンスの実務において監査役(会)の役割は限定的か否か

同提言は「内部監査部門の組織上の所属先をより上位のレベルに変え、IIAスタンダードに規定されているとおり、取締役会、監査委員会、監査等委員会へのfunctionalなレポート・ラインと社長へのadministrativeなレポート・ラインの二つのレポート・ラインを内部監査規程で定めるべき」とし、更に「監査役(会)へのレポート・ラインは望ましくないと考える(攻めのガバナンスにおける監査役(会)の役割が事実上限定的な点を踏まえると)」と結んでいる。

上述のとおり、ガバナンス機関の最前線において攻めと守りは不可分であり、例えば取締役会における攻めの議論において、監査役が排除されることはありえない。コーポレートガバナンス・コードの「原則4-4.監査役及び監査役会の役割・責務」においても、監査役及び監査役会がその役割・責務を十分に果たすためには、自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切ではなく、能動的・積極的に権限を行使し、取締役会においてあるいは経営陣に対して適切に意見を述べるべきとし、限定条件の排除を推奨している。実際当該原則に対してほぼ全ての上場会社がコーポレートガバナンス報告書でコンプライを表明していることから、同提言は現状を反映しているとは言い難い。

我々が危惧するのは同提言の当該部分がメッセージとして、監査役会設置会社は他の2者(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社)に比べガバナンス構造として不完全もしくは劣後するとの印象を与えかねないことである。 

我が国の取締役会の過半が未だマネジメント・ボードとしての性格を残しているが故、監査役会による取締役会および経営陣に対する監視・監督機能への期待は依然として強い。その結果として上場会社の7割強が監査役会設置会社を選択し、様々な工夫を凝らしてガバナンス機関の実効性確保に努力している。この現状を鑑み、我々は監査等委員会および監査委員会のみならず、監査役(会)と内部監査部門間のレポート・ライン確保の合理性を再度強調したい。 

今後時間軸の中でモニタリング・ボードへの移行は順次進むだろうが、そのプロセスにおいて監査役会を含むガバナンス機関と内部監査機能の関係性はより緊密となり、かつそれぞれの機能は高度化されるべきである。そのためには各団体や個人が個別に情報発信するだけでなく、例えば日本監査役協会と日本内部監査協会による共同研究や、経営者団体、アカデミアおよびガバナンスの実践団体(例えば当研究会)を交えての議論を具体的に進めるべきである。

2018/12/18

「内部監査の制度化」に関する再提言

日本のコーポレートガバナンス改革は「コーポレートガバナンス・コード」「スチュワードシップ・コード」を指針として継続的に進められています。昨年のコーポレートガバナンス・コード改訂、「対話のガイドライン」制定後も、さらなる改革に向けて金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」での議論が開始されています。
当研究会ではコーポレートガバナンス・コードにおいて内部監査制度の位置づけをより明確にするよう、平成30年1月9日、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」事務局に提出しましたが、現状を反映した形で再提言としてまとめました。


            「内部監査の制度化」に関する再提言

平成30年12月18日
一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会 理事会

代表理事 門多 丈

 本年4月、当研究会はコーポレートガバナンス・コード(以下CGコード)の改訂に伴い掲題の提案をパブリックコメントとして提出した。結果、コード本体の当該条項(補充原則4-13③)への反映は見送られるも、本年6月に公表された「投資家と企業の対話ガイドライン」において監査役と内部監査部門の適切な連携の必要性につき言及されるなど、理解の進捗が見られた。 

 現在ほぼ全ての上場企業が完全コンプライを目指すほど、CGコードは定着している。一方本年も著名メーカー各社の品質不正、有力地銀の不正融資、グローバル企業集団の不透明なトップマネジメントの報酬開示等、コーポレートガバナンス関連の課題は頻出している。この状況を看過することはCGコードの形骸化に繋がり、コードの実効性確保のためには更なる議論の継続が必要と考える。 

 当研究会は一連の不祥事の根本原因の一つとして、トップマネジメントの影響下にある第1および第2ディフェンスラインの有効性に問題があること、また特に監査役会設置会社において、左記の2機能に対峙すべき第3ディフェンスラインたる内部監査部門のトップマネジメントからの独立性が、制度的にいまだ未確立であることに引き続き警鐘を鳴らしたい。 

 コーポレートガバナンスの現場においては、上場企業の4社に1社が監査等委員会設置会社に移行し、著名企業を含む各社がその制度的メリットに注目している。例えば日本弁護士連合会は「社外取締役ガイドライン、20153月改訂」において、監査等委員会による内部監査部門を含む内部監査システムを活用した組織的監査を推奨、同委員会の内部監査部門に対する直接的な指示を可能とし、従前の監査役(会)と内部監査部門の間接的な関係性との差異を示唆している。 

 また経済同友会はさらに踏み込んで「社外取締役の機能強化、20185月」において、内部監査部門長の人事や評価は、監査の職務を行う会社法上の機関(監査役(会)、監査等委員会、監査委員会)にも同意をとるべきとし、ガバナンス機関設計上の非対称性の縮減を提唱している。 

 これらの状況を鑑み、当研究会は本年4月の提言内容が今だに本邦のコーポレートガバンスの高度化に有益と考え、以下その内容を再掲する:

 内部監査の制度化

 第3のディフェンスラインである内部監査の強化は、不祥事に対する有力な打ち手の一つとして認識されるも扱いは任意監査であり、監査役等監査や外部会計監査に比べてその位置づけが制度的に十分に担保されていない。しかし近年増加傾向にある監査等委員会設置会社では内部統制システムに依拠する監査を前提に、当該委員会が自身の監査資源として内部監査部門へ指揮命令を行い、事実上組織監査として当該機能を制度監査に組み込んでいる。この運用は指名委員会等設置会社でも同様である。

 一方上場企業の多数が選択する監査役会設置会社では、監査役会は経営者の職務執行の監査の一環として経営者の内部統制の整備・運用を監査する立場にあり、監査役会が内部監査部門を指揮命令することに抵抗が生ずる。結果、監査役会と内部監査部門の連携は情報共有レベルに留まり、監査役等監査の品質において他の二者と比べて異質となるリスクが生ずる。

 ここでガバナンス3類型間の監査役等監査の品質の等価性を担保し、かつ内部監査に制度的位置づけを付与すべく以下の改訂を提言する。

 <改訂補充原則4-13③案>

  上場会社において、監査委員会、監査等委員会及び監査役会は内部監査部門に対して、監査機能上の指揮命令権を確保すべきである。

 上場会社は、第3のディフェンスラインとして内部監査部門を明示し、また統治機関において監督・監査責任を担う監査委員会、監査等委員会及び監査役会は内部監査に関する監査機能上の重要事項の意思決定に責任を持ち、その監査活動に対して適切に指揮命令を行うべきである。

 ここで内部監査に関する監査機能上の重要事項とは、内部監査部門長の任免、内部監査規程の承認、内部監査計画の承認等を指す。

2018/01/12

「内部監査の制度化」に関する提言書を提出しました

現在、コーポレートガバナンス・コードの改訂に向けて金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」で議論が進められていますが、当研究会ではコーポレートガバナンス・コードにおいて内部監査制度の位置づけをより明確にするよう議論してきました。この議論の結果を提言としてまとめ、平成30年1月9日、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」事務局に提出しました。

「内部監査の制度化」に関する提言
平成30年1月12日
一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会 理事会

代表理事 門多 丈

1.本提言の趣旨
 本提言は、現在進行中の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」と平成29年度金融行政方針に基づく「機関投資家と企業の対話についてのガイドライン」作成に関するものである。
 最近の企業不祥事の頻発もあり、「コーポレートガバナンス・コードのレビューと対話についてのガイドライン」の項目として、内部監査の位置づけの明確化と機能の充実を期することを目的とする。

2.第3のディフェンスラインとしての内部監査
 改正会社法、コーポレートガバナンンス・コード(以下CGコード)、スチュワードシップ・コード等、わが国のコーポレートガバナンスの枠組みは近年加速度的に整備されてきた。しかし足元では相変わらず著名企業による不祥事が頻発している。その度に再発防止策の有力な打ち手の一つとして内部監査機能の強化が取りざたされている。
 内部統制のグローバル標準である新COSOは内部監査に対して、トップマネジメントが主催する執行系列と同時に、取締役会等統治機関による監督・監査系列からの2系統の指揮命令権限を明示し、当該組織・機能を第3のディフェンスラインとして位置付けている。このことは、内部監査は社内組織であると同時に、統治機関を通して外部ステークホルダーに対しても説明責任を有する公益的機能であることを示唆する。
 従前より内部監査は監査役等監査や外部会計監査とともに三様監査の一角を占め、コーポレートガバナンスの向上に資するものと認識されてきた。しかし監査役等監査や外部会計監査は会社法により公益性が担保され、制度監査として位置付けられているのに対して、内部監査は依然として個社ごとの任意監査のままにある。
わが国の内部監査は歴史的に社長直下の任意組織として発達し、専ら社業発展(社益)のために奉仕する機能役割が期待されてきた。従って社益と公益が対立する場面において、その選択は内部監査人個々人の倫理観に委ねられ、孤立化を招く。
 この事態を収拾するためには、まずソフトローであるCGコードにおいて内部監査の公益的性格を明示し、第3のディフェンスラインとして位置付け、制度化への道筋をつけるべきと思料する。

3.ガバナンス機関設計と内部監査
 改正会社法はガバナンスの有効性は等価であるという前提のもと、個社ごとの情況に応じて、3類型の機関設計を選択可能とする。CGコード原則4-10.においても会社の特性に応じて最も適切な形態を採用するとともに、任意の仕組みを活用することを推奨している。具体的には監査等委員会型や監査役会型では任意の諮問機関として指名・報酬委員会を設置し、指名委員会等型への漸近を図る例は多い。また常勤職を必置としない指名委員会型や監査等委員会型でも、常勤の監査委員や監査等委員を任意で設置し、常勤監査役が有する継続的モニタリングの職能を取り込もうという動きがみられる。
 指名委員会等型および監査等委員会型ではそれぞれの委員会監査において、内部統制システムへの依拠を可能としている。すなわち監査委員および監査等委員は取締役として内部統制システムの構築・運用に対して直接に責任を有し、その文脈において内部統制システムの重要要素である内部監査に対する指揮命令権を確保することに合理性を見出す。結果、監査委員会監査及び監査等委員会監査では、内部監査を自らの監査資源として活用し監査品質の確保を可能とする。
 一方監査役会型において監査役会は内部統制システムの独立評価者として位置付けられる。そのため内部監査の公益性を論ずる以前に、監査役会が当該部門に対する指揮命令権を有すこと自体に抵抗が生ずる。このことは監査資源の質・量において監査役監査が、任意の常勤職を設置し更に内部監査に指揮命令権を有する監査委員会監査や監査等委員会監査に対して劣後し、3類型間の等価性を棄損するリスク要因となり得る。
 この状況を打開するため、監査役会も監査委員会及び監査等委員会とともに内部監査に対して一定以上の責任を有することによりその公益性を確保すると同時に、それぞれの監査品質の向上を期するよう、CGコードにてガイダンスすべきと思料する。

4.結論
 現行CGコードの改定と実務指針としてのガイダンスを加筆することを提言したい:

<現行補充原則4-13③>
上場会社は、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである。
<改定補充原則4-13③案>
上場会社において、監査委員会、監査等委員会及び監査役会は内部監査部門に対して、監査機能上の指揮命令権を確保すべきである。
<ガイダンス案>
上場会社は内部監査部門の公益性を確保するため、第3のディフェンスラインとして当該部門を明示し、また統治機関において監督・監査責任を担う監査委員会、監査等委員会及び監査役会は内部監査に関する監査機能上の重要事項の意思決定に責任を持ち、その監査活動に対して適切に指揮命令を行うべきである。
ここで内部監査に関する監査機能上の重要事項とは、内部監査部門長の任免、内部監査規程の承認、内部監査計画の承認等を指す。

2015/01/21

「コーポレートガバナンス・コード原案」に対するパブリックコメントを提出しました

平成26年12月17日に公表された「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)≪コーポレートガバナンス・コード原案≫~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~の公表について」に関し、実践コーポレートガバナンス研究会では、1月21日付で以下の通りパブリック・コメントを提出しました。
平成27年1月17日
「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)」へのコメント
一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会 理事会
代表理事 門多 丈
                    
冒頭に記載されているように「コーポレートガバナンス・コード原案」(以下、コード原案という)は平成26年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改定2014」に基づき、わが国の成長戦略の一環として策定されたものである。一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会(Institute of Corporate Gavernance, Japan、以下ICGJという)は、2009年9月に設立した際、「コーポレートガバナンスは、企業経営に係るステークホルダーの利害の最適なバランスを図りながら、企業価値の最大化を追求する枠組みと活動です。ICGJはコーポレートガバナンスが企業の発展過程、及び企業における資本と経営の分離の程度に応じて、様々な形態をとることを十分認識しつつ、それぞれの企業がより良いコーポレートガバナンスを実現していくことを支える活動を行うことで、日本企業の価値を高め、究極的には日本経済の活性化、国際競争力の強化に貢献することを目指します」とその趣旨をうたっている。今回のコード原案の作成の意図と経緯は、この設立趣旨と多くの点で合致するものであり、ICGJは高く評価するものである。
コード原案においては、ICGJはいくつかの修正が必要と考えるものの、次の点については評価できる。

  1. 原則3-1「情報開示の充実」で開示の内容として、経営戦略、コーポレートガバナンスについての基本的な考え方と基本方針、経営幹部・取締役の指名、報酬についての方針と手続き、個々の取締役・監査役の選任・指名についての説明を規定したこと
  2. 基本原則4で取締役の役割・責務の一つとして「企業戦略等の大きな方向性を示すこと」と明記したこと
  3. 原則4-4などで監査役・監査役会の役割、責務を盛り込んだこと(補充原則では社外取締役との連携も協調)
  4. 原則4-7、8、9で独立社外取締役の役割、責務、活用、要求される資質を明記したこと。特に8で「独立取締役を2名以上選出すべきである」としたこと
  5. 原則4-11で取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことにより、その機能の向上図るべきことを明記したこと
  6. 原則4-14で取締役・監査役のトレーニング方針策定と実施を規定したこと
  7. 原則5でスチュワードシップ・コードに基づく株主との対話の重要性をうたったこと
しかしながら、ICGJはいくつかの点で補足する必要がある点、追加したい点があることを表明する。

1.  「コンプライ・オア・エクスプレイン」の原則について
有識者会議でも議論されていたがエクスプレインを避けるために形だけの独立社外取締役を2名置くという形骸化が懸念される。すべての重要事項についての説明義務(accountability)があるとの考え方に基づいて、コード原案で「説明を行うべき」と明記している事項以外に、重要 な事項については、コンプライしてもその事項に関する会社の考え方をエクスプレインしなければならないと明記すべきである。そのような事項とは:
  • 会社の目指すところ(経営理念)や経営戦略、経営計画
  • 独立社外取締役2名以上の設置について
  • 独立社外取締役の基準及び資質
  • 取締役会全体としての実効性に関する分析・評価についての説明(「行っています」だけで終わらすことはあまり意味がない)
  • 原則4-10の「任意の仕組みの活用」について説明する(ベスト・プラクティスの共有ができる)
2.  原則4-6 「経営の監督と執行」については「業務の執行に携わらない、業務の執行と一定の距離を置く取締役の活用について検討すべきである」では不十分である。「経営の監督と執行の分離」を目指すべきであり、非業務執行の取締役(独立社外取締役を含む)、監査役の監督の役割を強調すべきである。特に取締役会議長を非業務執行である独立社外取締役とすることで「経営の監督と執行の分離」を確かなものにすべきである。

3.  用語について「独立社外取締役」という言葉は冗長である。「独立取締役」は社外であることは自明であるから「独立取締役」とすべきである。

2014/02/10

【提言】「日本版スチュワードシップ・コード」に対するパブリックコメントを提出しました

平成25年12月26日に公表された「『責任ある機関投資家』の諸原則(案)≪日本版スチュワードシップ・コード≫~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~」に関し、実践コーポレートガバナンス研究会では、2月3日付で以下の通りパブリック・コメントを提出しました。
「責任ある機関投資家」の諸原則(案)へのコメント
平成26年2月3日
一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会 理事会
 代表理事 門多 丈
                 
機関投資家が中長期的投資の責任を自覚し、投資先企業との「建設的で目的を持った対話」を行うことには賛成します。機関投資家が投資に当たって把握すべき内容に「投資先企業のガバナンスの状況」を明示している(原則3-3)ことも評価します。
ご検討頂きたい点を下記に申し上げます。
1)長期的な観点での建設的な対話の趣旨から、対話すべき相手については「投資先企業」いう言葉は曖昧です。スチュワードシップという言葉の本質的な意味からすると株主の負託を受けた「経営者または社外取締役を含む取締役と意見交換する」ことを明記されることが相当ではないかと考えます。(原則4など)
2)スチュワードシップの責任を果たすにあたり、もっとも配慮すべきリスクは利益相反でありその中でもインサイダー情報の受領にあると考えます。その点からは原則4-3の規定を原則2「利害相反」に盛り込むべきと考えます。また原則4.の注記(対話で入手した未公表の重要事実の厳密な管理と当該企業の株式の売買停止)は機関投資家が遵守すべき重要な項目であり、「注記」ではなく原則(2)「利害相反」の中で規定すべきと考えます。
スチュワードシップ・コードが機能するためには企業側が効果的に対応することが重要であり、企業が取締役会で然るべくコーポレートガバナンス・コードを決議するなど、しっかりしたコーポレートガバナンス体制を構築し投資家のエンゲージメントに対応できる態勢を整えていることが前提と考えます。そうすることで、スチュワードシップ・コードと共存する環境を作るべきと考えます。

お問い合わせ先

一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会

ページトップへ