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コーポレートガバナンス改革のレガシー 門多 丈

2023年08月28日
コーポレートガバナンス・コードが導入されて10年近くになるが、未だ議論が深まらず、積極的に取組まれていない幾つかの項目(レガシー)を取り上げました。

我が国でのコーポレートガバナンス改革では、議論が中途半端のためにレガシー(負の遺産)とも言うべきバイアスが残っている。 

「まずは社外取締役を過半に」でよいのか?:

 日本のコーポレートガバナンス改革は、内輪の論議の場となっていた取締役会に、社外取締役を置くべきとの議論から始まった。2021年のコーポレ―トガバナンス・コード改定で、プライム上場企業では独立社外取締役を3分の1以上選任することが義務つけられ、次は「社外取締役を過半に」と予想されている。モニタリング・ボードであるならば、社内の経営執行の取締役を何人入れるかを議論すべきである。米国では、取締役会には社内からはCEOのみの場合もあり、加えてCFOや企業の戦略のマテリアリティに応じて技術開発、DX、人材開発、リスク管理担当の役員がメンバーに加わっている。

社外取締役には社内情報の非対称性がある?:

 社内、社外の取締役の責任は、取締役会に上げられた情報、資料に基き意思決定することである。「非対称性」があるならば、それを解消し、取締役の意思決定に必要な情報を取締役会に提供するのが経営執行の責任である。CFOや各部門長が取締役会での執行の報告を定期的に行うような仕組みつくりも重要である。社外取締役も執行役員以下のメンバーとのコミュニケーションに努め、調査権も活用すべきである。監査役や会計監査人との情報交換も効果的である。 

社外取締役には取締役会議長は無理?:

 モニタリング・ボードの実効性を確保するためには、社外取締役が取締役会議長に就くべきである。経営執行の責任は経営計画を立て事業の推進について取締役会に諮ることにあり、その議案の審議を司る取締役会議長に経営執行がなるのは問題である。激動する企業環境の中で長期的な視点で経営、ビジネスのあるべき姿を幅広く議論し、イノベーションを大胆に行うためにも、社外取締役が取締役会議長に就くのが望ましい。しがらみのないビジネスポートフォリオの見直しも容易になる。 
社外取締役の取締役会議長がアジェンダ(取締役会議案)の設定をし、自由闊達な議論とその取りまとめをリードすることが望ましい。取締役会の実効性の検証と改善や指摘事項のフォローアップのリーダーシップを取れる。取締役会の効果的な運営とガバナンスの点からは、コーポレート・セクレタリー(会社法の専門家)や取締役会事務局の支援が必要であり、企業経営はそのような体制を整備する責任がある。

形だけの特別委員会では?: 

監査委員会や指名・報酬委員会の独立性は言うまでもないが、不祥事発生や敵対的買収など「戦時」における特別委員会と独立社外取締役の役割が重要になっている。伊藤忠商事がファミマを完全子会社にするために行ったTOB関して、意見を具申するための特別委員会が「取引自体には賛同するが、株主には応募推奨しない」との意見を具申した。一部の株主は裁判で訴えTOBか価格より高い「決定」を得た。詳細は公開されていないが、特別委員会が起用した財務アドバイザーの算定株価のレンジの下限を伊藤忠の買い付け価格は下回っていたと予想され、強制買取りされ裁判井訴えなかった少数株主は「不利益」を被った。TOB価格について明確な判断をしなかった特別委員会の責任が問われる。SBI新生銀行の特別委員会も同様の責任を問われている。 
セブンへのアクティビストの経営改革の提案も、セブンの経営に対してだけではなく独立社外取締役で構成される戦略委員会に対して出されている。モニタリング・ボードへ移行する中で、アクティビストなどの株主の「対話」の相手の主軸は明確に独立社外取締役になって行く。

※ 本記事はニッキンレポート7月17日号「ヒトの輪」に掲載したものです。


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