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研究開発費の資産計上を 

2023年12月26日
企業価値は、企業活動の将来の収益・キャッシュフローから算出されるが、研究開発投資の成果が大きく貢献しうる。研究開発費を資産化せずに経費処理すべしとの日本の会計原則はその考えにマッチしない。
コーポレートガバナンス改革の焦点が、バックキャスティングの企業価値の形成の論議に移ってきている。米国のS&P500の株価は、9割が無形資産で形成されている。我が国の課題であるPBR向上のためにも、市場が企業の無形資産の価値をどのように株価に織り込むかの議論を深める必要がある。

無形資産の重要な構成要素に企業の研究開発費があるが、我が国では日本公認会計士協会の「研究開発費及びソフトウエアの会計処理に関する実務指針」で、原則「研究開発費はすべて発生時に費用として処理しなければならない」とされている。この点では日本企業は無形資産として計上できる海外企業に比べてハンディキャップを負っている。当該期の利益が圧縮されることと資産計上ができないことの問題である。研究開発費は将来のキャッシュフローを生み出す源泉となる投資であり、資産計上すべきではないか。米国の創薬スタートアップ企業のように、売り上げが立っていない段階でもしっかり株価がつくのは、研究開発費を無形資産として市場が評価しているからである。

研究開発費の資産計上が出来ないために、必要以上に研究開発を抑える企業経営のモラルハザードが日本の企業経営に起こりうる。研究開発拠点を海外に移すことで、日本のイノベーションの空洞化も起こっている。研究開発費を会計上で資産計上する扱いについて、経営者の恣意性のリスク(コストで落とすべきものを資産とする)を懸念する声があるが、企業自身が明確な基準を設けるとともに、取締役会がしっかり監督するコーポレートガバナンスの仕組み確立することで対処すべきである。統合報告書の中でイノベーション戦略を語り、研究開発投資が将来の企業価値の形成に具体的にどのように貢献するかについて、経営の明確な説明も重要となる。

※ 本記事は金融ファクシミリ新聞11月27日号「複眼」欄に投稿したものです。

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