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新しい資本主義の目玉は補助金? 門多 丈

2024年04月24日
AI用や省エネなどの高機能の半導体の競争は熾烈になりそうだが、戦略無しの補助金の発想だけで勝てるとは思えない。

アベノミクス以来、コロナ対策を含め政府は思い付き的に補助金を乱発し、その効果が殆ど検証されていない。ロシアのウクライナ侵攻を受けてガソリン価格が高騰した際に、政府は補助金で対応したが、エネルギー政策の視点は完全に欠如し、需給関係での価格調整機能を発揮させず、円安圧力を高める結果となったのではないか。補助金は支出後には国会の目が届かない、投資と違い直接のリターンは、その事業から上がる税金くらいであり、産業育成、技術装備や雇用創出などの効果を、どのように予想し検証するかが重要だ。 

政府はTSMC(台湾積体電路製造)の熊本工場誘致に12080億円、北海道のラピダス・プロジェクトに3300億円(別途に同社に使われる基金に6460億円)を出すなど、半導体関連の巨額な補助金が目立つ。半導体の国家戦略、経済安保、国内のサプライチェーンの構築などの意義は理解できるが、事業総資金に対しTSMCの場合は4割、ラピダスの場合は半分まで政府がカバーする根拠は何か。TSMCの場合は、同社の高度で精度の高いファウ半導体の製造受託(ファウンドリー)事業を国内に置くことで、半導体材料や製造装置の「上工程」のビジネスを国内で強化することに、ラピダスの場合は自動運転の車やAIなどに欠かせない先端半導体の国産化や量産に狙いがあると言われる。 

1990年代後半に半導体事業のグローバルな構造変化が起こった。用途に沿って微細化や積層化を駆使して半導体を設計する専門性の高いデザイン企業と発注者の厳しい要件に沿って大量生産を行うために巨額な設備・技術投資を行うファウンドリー企業への分化であった。日本の半導体メーカーはその流れに乗れず衰退した。今回の戦略は日本の強い素材、製造装置ビジネスを組み込んで、半導体ビジネスの川上から川下までの国内でのサプライチェーンの形成が狙いであるが、グローバルな技術や競争の環境が激変する中で、国のまる抱えで本当に上手くいくのかは疑問だ。

※ 本記事は金融ファクシミリ新聞2024年3月25日号「複眼」欄に投稿したものです。


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