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日本の経営に求められるのはdiversity(多様性) 門多 丈

2011年01月24日
日本の企業経営の抱える経営戦略、事業展開やリスク管理などでの課題の解決には、取締役会のメンバーを多様で異質な人材による構成とし、効果的に対処する体制を強化することが極めて重要になっている。
実践コーポレートガバナンス研究会の1月の月例勉強会では米国の法律事務所ホワイト&ケースのアーサー・ミッチェル弁護士に講演して頂いた。講演の中では、米国の新しい金融規制法であるDodd-Frank Act の中で強化されたコーポレートガバナンス関係の規制についての詳しい説明があった。米国ではリーマンやAIG危機の反省を踏まえ、よりよいガバナンスを目指しての議論と検討が深まっていることを実感した。

具体的にDodd-Frank Actの中では次のような項目での規制が導入・強化された。

《Proxy-access》;株主総会の提案に株主提案の記載することを容易にする。

《Broker-discretionary-voting》;株主総会の投票に当たってはBrokerは取締役選任、役員報酬などの重要事項については(実質権利者たる)株主の意向を聞かねばならない。

《Whistle-blowing》;  内部告発者に対するretaliation禁止強化。内部告発者に対し、政府から罰金の1~3割相当額賦与(インセンティブ)

《Say-on-Pay》;役員報酬に関しての取締役の発言権の強化

《Claw-back》;財務報告が間違っていた場合に過去に支払った経営陣 に対するインセンティブ利益の取り戻し、などでミッチェル氏からは、このような動きはいずれ日本の規制にも影響するとのコメントがあった。

米国のガバナンス環境の外観としては、独立取締役の比率は70-75%とNasdaque Rule (過半数)を大きく上回っていること、女性の取締役は現在1割程度であるが増加の傾向にあり,minority(少数民族系)の起用も活発化するであろうとの説明があった。この背景としては米国の企業としても株主以外の多様なステークホルダー(利害関係者)を意識した経営を行うべき段階に来ていること、企業の経営や事業のリスクがより多様化していること、CSR(企業の社会的責任)や CO2などの環境問題に対する企業の適切な対応が一層求められてきていることがあるとのことである。企業のグローバル化戦略の成功のためにも取締役会と経営のdiversity(多様性、異質なものの受容)が必須の課題となる。

講演の後の議論では日本の企業の取締役会のdiversity(多様性、異質なものの受容)の課題で盛り上がった。ミッチェル氏が面白い比喩を引用した。中国の漁師の知恵として「水槽にウナギを入れて長距離を運搬するときには、鮮度を落とさないようにウナギが嫌う魚(天敵?)を同じ水槽に入れておく」が紹介された。まさにdiversityの効果の話であり、日本のガバナンスにも通じる教訓である。今日の日本企業の経営は企業ミッションの自覚、競争力のがある経営戦略の策定、不確実性の中での事業展開やリスク管理などの面で複雑な課題を抱えている。取締役会のdiversityを強化し、効果的に課題に対処する体制作りが極めて重要になる。昨年米国で深刻化したトヨタのリコール問題では、取締役会のイニシアティブで早期の適切な対応を行わなかったことが失敗の原因となった。diversityに欠ける取締役会、経営体制の問題が根底にあったと思う。

(文責:門多 丈)

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