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会社法制部会の論点(2):企業統治の在り方 ~監査役会の監査機能 安田 正敏

2010年12月22日
監査役設置会社においては、監査役は取締役の違法な行為に対する十分な牽制機能をもっているが、経営者の行う経営の妥当性に関する監視を期待されていないという意見が多数です。したがって、この役割が期待される一定の独立性の要件を満たした社外取締役を義務付けるべきかどうかが重要な争点になってきます。
今回は「監査役の監査機能に関する検討事項」のうち「経営者の選解任への関与」や「会計監査人の報酬等の決定権の付与などに関する監査役の権限」について見てみます。これらの検討事項は、「取締役会の監督機能に関する検討事項」の中の「社外取締役に関する事項」と「取締役の監督機能充実に向けた機関設計」に関する議論と深く関連しています。
この「経営者の選解任への関与」や「会計監査人の報酬等の決定権の付与などに関する監査役の権限」については、会社法制部会の議事録を読む限り、次のような議論が優勢です。

現在の監査役は取締役の違法行為を牽制するあるいは差し止める十分な権限が与えられており、経営者の選解任への関与に関して権限を与える必要はない。また監査役の会計監査人の報酬等の決定権についても現在の会社法は監査役の同意権を認めており、また会計監査人の選任に関しても監査役の議案提出請求権も認めているので、現在の会社法で十分である。

この議論の背景には、監査役監査は適法性監査であるべきだという考えがあります。まず、経営者の選解任への関与に関する事項については、「代表取締役が行っております行為それ自体については、(監査役は)責任を負わない立場にありますので、監査役に取締役の選定権限を与えることは、大雑把に言えば経営責任を負わないものが経営者を選ぶことになる点で、やや問題があると思います」(野村幹事)。という考え方です。
適法性監査の前提は委員会設置会社についてもあり、現状では会計監査人の報酬については監査委員会にその決定権はありません。なぜなら、適法性監査の考えに従えば、「会計監査人に対して支払う報酬というのは、(中略)財務上の問題であり、これは明らかに業務執行の範囲と思っております」(八丁地委員)という考え方だからです。

これらの考え方に対する海外投資家からのコーポレートガバナンスに関する批判は、「多くの委員・幹事のご発言のような、現在の適法性監査権限を監査役がきちんと果たしているか、その権限行使について十分かどうかという観点からの御議論を超えた部分での批判ではないかという感じがいたします。つまり適法性を超えた経営の妥当性について監督する機能が、日本のコーポレートガバナンスにおいては足りないのではないかという批判です」(岩原部会長)と受け止められています。
この経営者の行う経営の妥当性に関する監視を期待されるのが、一定の独立性の要件を満たした社外取締役ですが、日本企業の大部分を占める監査役会設置会社について、会社法は独立性の要件を定めていないし、一定の独立性の要件を満たした社外取締役を置く義務を課していません。したがって、投資家から見た場合には、日本企業のほとんどは、経営者の行う経営の妥当性に関する外部の目からの監視が期待できないという状況です。
そこでこの状況を打開するためには、経営者の選解任への関与や会計監査人の報酬等の決定権の付与などに関する監査役の権限などの監査役の権限強化に代わる議論として「取締役会の監督機能に関する検討事項」に関する議論が重要になるわけです。次回は、この議論について見てみることにします。

注:議事録の引用は第4回会議からの引用です。法務省のウェブサイトより
  (http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi03500005.html)入手できます。

(文責:安田正敏)

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