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リーマン破綻と社外取締役の責任 門多 丈

2010年12月13日
リーマン破綻に至るまでにも的確な判断によって危機を回避した投資銀行などもあった。このような判断ができるためには専門性だけではなく、企業のミッションを深く理解し、リスクにも配慮し知恵を働かせることが重要となる。今後の取締役会での社外取締役の役割を考える上でも役に立つと思う。
実践コーポレートガバナンス研究会の今月の勉強会では日本証券投資顧問業協会の会長の岩間陽一郎様に「投資家から見た株式市場の課題について」のテーマで講演して頂いた。

その中で米国ではリーマン破綻の教訓を生かし、社外取締役によるガバナンスを一層充実させる方向で議論を深めているとのコメントがあった。その際に破綻前のリーマンの社外取締役会のメンバーについて説明があったが、元女優や演劇プロデユーサーなどで年齢70,80才台の高齢者も多数いた。ファルドCEOの友人を中心に構成されていたことは明らかである。

講演の後の質疑である出席者から「ROE20-30%を実現し、業績を伸ばしていたファルドCEOに対して社外取締役が何かを言うのは難しかったのでは。このような状況で経営判断できる社外取締役はレアな存在では」とのコメントがあった。確かにこのような難しさはあるが、社外取締役としてはワンマン経営者の「暴走」を抑え、企業を破綻させないように特にリスクマネジメントの点から取締役会で議論することはあったと思う。特にリーマンについては資産の急膨張については時系列を追って財務内容を分析すれば明らかであり、異常に高いリバレッジ(債務・資本比率)については98年に破綻したヘッジファンドLTCMでの貴重な教訓があったのであるから。

リーマン破綻に至るまでにも的確な判断によって危機を回避した投資銀行などもあった。例えば、

  1. 2006年の秋ごろ幾つかの投資銀行の調査部のアナリストは、サブプライム・ローン(信用度の劣悪な借り手の住宅ローン)のデフォルト(債務不履行)率が米国の好景気にも拘わらず異常に上昇していることに気がついた。この警告を踏まえ、ゴールドマン・サックス、JPモルガン、ドイツ銀行などはこの関連の業務を停止したという。逆に収益のチャンスとばかり突っ込んでいったのが、リーマンとメリルであったという。

  2. 2008年3月のベアスターンズの破綻の直後には香港上海銀行、ドイツ銀行などがレポ(証券担保のローン)などのリーマンとのファイナンス取引を停止したという。

  3. ある有力な年金基金のファンド・マネージャーは、証券化商品で同じ格付けの社債よりスプレッド(上乗せ利回り)が大きい背景には信用リスクとは別の(複合的な)リスクが内在する、と判断し、証券化商品には一切投資しなかった。

このような判断ができるためには、金融機関などでは専門性の高いメンバーを配置するとともに、企業のミッションやリスクについても活発な議論を行える取締役会の構成とすることが重要ではないか。

米国でのガバナンス議論には危険な兆候もある。元日経新聞記者で在ニューヨークの松浦肇氏が11月8日の金融財政事情誌に投稿した「足踏みするアメリカのコーポレートガバナンス改革」で詳しく述べている。最近は「経営判断原則」(Business Judgement Rule)を補強する判例がアメリカで相次いでいるという。 必要な情報を入手し、会社の利益になると信じて誠実に経営判断したのであれば、取締役の責任は果たしているという原則である。松浦氏はこの原則はリスク委員会の設立や報告制度の確立と言ったプロセス重視の考えとなり、「取締役に甘い判例」になっていることを警告する。またシステミック・リスク(その破綻が金融システム自体に悪影響をもたらすリスク)を背負った金融機関の取締役にも一般の会社と同じ「経営判断原則」が適用される慣行となっており、シティの社外取締役であったル―ビン氏(元財務長官)の責任追及も曖昧な結果になっている状況を松浦氏は危惧している。金融のプロで金融システムの運営にも関わっていたル―ビン氏には、大所高所からシティの経営や戦略・事業のリスクについて「ものを言う」取締役として株主から期待されていたはず、との考えである。

(文責:門多 丈)

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