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形式論対実質論-社外取締役を巡る議論 安田 正敏

2010年11月22日
コーポレートガバナンスに係る外形的制度の整備に関する議論はできるだけ早く決着をつけ、それをどのように機能させ企業価値の向上に結びつけるのかということに早急に取り組む必要があります。
会社法制審議会の会社法制部会第2回会議(平成22年5月26日開催)の議事録を見ると6人の委員、参考人の方々が報告を行っています。そのうち、企業年金連合会運用執行理事の濱口大輔委員、東京海上アセットマネジメント投信株式会社顧問(当時-現社団法人日本証券投資顧問行協会会長)の岩間陽一郎参考人と2人の方々が述べた意見は主として投資家側からみた日本企業のコーポレートガバナンスに関する意見でした。また、リスクメトリックスグループISSガバナンスサービシーズ日本リサーチ代表の石田猛行参考人の意見は、機関投資家に対して議決権行使のアドバイスをする立場からの意見です。(岩間陽一郎氏は当研究会の12月2日の月例勉強会の講師をしていただく予定です)。

この3人の方々は共通してコーポレートガバナンスにおける独立した社外取締役の必要性を強調しています。投資家の立場からの濱口委員と岩間参考人は、日本の企業の長期間にわたる業績の低さ、結果としての株式投資のパフォーマンスの悪さに言及し、日本企業では長い間、一般株主が軽視されてきたと主張しています。そして、この問題を解決するためには独立した社外取締役が必要であると論じています。特に岩間参考人は、「避けて通れないのはやはり,海外の投資家の視線もそうでございますが,独立社外取締役の存在,その存在というのは何を意味するかと言えば,やはり経営者の暴走をチェックする最後のとりでといいますか,場合によっては首にできるかできないか,こういう問題につながる」と言い切っています。

これに対して、日立製作所執行役副社長の八丁地委員が「経済界のスタンスを,私個人のスタンスも含め」発言しています。その発言の趣旨を筆者なりに要約すると、「形式的に独立した社外取締役を規制で押し付けても意味がない、企業の自主的で多様性のある努力にまかせその結果を株主に開示し株主に判断してもらいながら実質的な議論をすべきである、またそれができるような法制度を議論すべきである」ということだと思います。

一見この二つの意見は合い交わることがないように見えますが、実は物事の必要条件と十分条件を言っているということだと思います。独立した社外取締役の役割が重要であるから、法律でそれを要請すべきであるという意見は、独立した社外取締役を置いただけではコーポレートガバナンスは良くならないという意見と矛盾しません。まず、そういう外形的な制度を定めた上で、それを実質的に機能させていくにはどうしたらよいかという議論が必要となるのだと思います。それがなければ、形式的な制度を導入する意味がありません。このことは岩間参考人の次のような発言に示されています。

「私も,これは形式が整えばいいということではないと思います。要するにこれは,個々の発行体が,海外投資家あるいは日本の投資家に対してもそうだと思いますけれども,十分に自己の会社の実情というか戦略ということを丁寧にディスクローズされて説明されて,納得を得られればそれでいいのだろうと思います。ただ,それだけでは,ものすごく労多くしてなかなか大変だというのが実感でもございまして,そういう意味で言いますと,基本的なルールというのは彼らにも理解可能なものに少なくともしておくべきだという方向に,我々としては考えがだんだん傾いているということでございます。」

外形的制度の整備に関する議論はできるだけ早く決着をつけ、それをどのように機能させ企業価値の向上に結びつけるのかということに早急に取り組む必要があります。

(文責:安田正敏)

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