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ドル安と人民元 門多 丈

2010年11月01日
ドル安に連動し人民元が動いていることもあり、米国は人民元切り上げを強く迫っている。中国は表面的には直接の摩擦は避けるべく動いているが、水面下では強かに長期的な通貨政策を模索していると思われる。
香港でのアジア年金ラウンドテーブルに出席した。アジア各国の政府年金とカルパース(カリフォルニア州職員年金)などの欧米の公的年金が年1回開催する会議である。昨年のラウンドテーブルのテーマは「リスクを管理し不確実性を低減する」であったが、今年は「アジアの成長とグローバルな苦境」と昨今の環境を適切に反映したものとなっていて興味深い。

会議では昨今の為替問題も活発に議論され、人民元の今後への注目も強かった。米国はドル安に連動し人民元が動いていることもあり、人民元の改革や切り上げを強く迫っている。中国は表面的には直接の摩擦は避けるべく動いているが、水面下では強かに長期的な通貨政策を模索していると思われる。

香港の通貨庁の幹部はラウンドテーブルでの講演で、人民元安は中国にとって望ましいものではないと強調した。中国が今後とも高度成長を続けるためには海外から莫大な直接投資(FDI)を受けていく必要があり、そのためには人民元は強くなければならないと言う考えである。国としてFDIなどのライアビリティのマネジメントの考えを深めていると感じた。中国が外貨準備における保有通貨の分散のみならず、人民元についても通貨政策としてドル・リンクからユーロ、円、韓国ウォンや新興国通貨とのバランスの中で将来は考える方向で動いていくことは確実であろう。

今後中国政府は人民元の流動性の強化にも力を入れる考えだ。中国の国債については国内商業銀行のみならず、海外の中央銀行や有力国際商業銀行が投資する市場を設ける構想を持っている。人民元の国際化の梃子に香港を活用する考えでも動いている。香港での人民元建ての債券発行が活発化しているという。世銀などの国際金融機関やコカコーラ、マクドナルドなどのグローバル企業が、人民元建ての銀行債や社債を香港で発行する動きを狙っている。60年代にロンドンがユーロ・ドルのオフショア・マネーセンターとして機能したことと類似の動きとも考えられないか。

このような一連の動きは80年代に本格化した円の国際化の動きを惹起させる。ドルの衰退、中国経済のグローバルな影響力、アジア域内経済の反映などの今日の環境の中での中国のこのような戦略的な動きは、注意深く見ていく必要があると思う。

(文責:門多 丈)

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