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「投資家」とは「株主」だけだろうか 安田 正敏

2010年10月28日
日本の個人のお金が銀行預金や生命保険あるいは年金という形で間接的に株式市場に係っている現実をみると、直接的な株主だけではなく、上場企業のガバナンスはもっと広い市民社会を意識する必要があると思います。
10月26日のブログでふれた法制審議会会社法制部会の第1回会議でのフリートーキングの中でもうひとつ注目したい議論があります。それは、コーポレートガバナンスを考えるとき、上場企業の経営者が意識しなければならない投資家とは誰か、ということです。上場企業の経営者にとって狭義の投資家はもちろん株主ですが、コーポレートガバナンスを議論する場合、この狭義の投資家だけでは不十分であるということです。
早稲田大学教授の上村委員は、「買おうかなと思っている投資家は,潜在株主というマークがついているわけではありませんで,だれだか分からない人ですね。不特定多数のすべての人に対して,開示も,会計も,監査も,ガバナンス,それから内部統制も,全部やらなければいけない。そういう責任を負っているのが資本市場のルールが適用される会社だと思います」と言っています。

この発言は、誰か分からないが将来株主になる可能性のある不特定多数の人を指しています。しかし、日本の個人のお金が銀行預金や生命保険あるいは年金という形で間接的に株式市場に係っている現実をみると、直接的な株主だけではなく、上場企業のガバナンスはもっと広い市民社会を意識する必要があると思います。この考え方は、金融審議会金融分科会の「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ報告~上場会社等のコーポレート・ガバナンスの強化に向けて~」という報告の中にある「資本市場の主役が本来、究極的な投資者である個人=市民であるとすれば、株式会社制度の濫用等から市民社会を守るという面でも重要な意義を持つものであると捉えることができる」という言葉にも現れています。

企業がこの考え方を受け入れるかどうかは企業経営者の判断になりますが、個人的に筆者は、この考えは極めて妥当であると思います。そして、会社法制を考える場合、この考え方に基づいたコーポレートガバナンスを実現できる法制度を目指すべきであると思います。例えば、この考え方に立つと、独立した社外取締役の是非を巡る議論では必然的にそれを是とする結論にいたるはずです。社外取締役の是非を巡る議論だけでなく、今後、第6回まで進んでいるこの部会のいくつかの重要な議論を見てきたいと思いますが、この視点はそれぞれの議論を判断する上で重要な拠りどころになると思います。

(文責:安田正敏)

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