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米国の金融は立ち直ったか 門多 丈

2010年10月18日
米国の株式市場は活況であるが、米国の金融システムはリーマン・ショックの後遺症に悩む投資銀行、CPや社債市場での資金調達が難しいノン・バンク、ボルカー規制に悩む商業銀行、と三重苦とも言うべき状況にある。
米国の株式市場は活況であるが、実態はFRBの超金融緩和政策に支えられた(行き場のないお金が集まる)バブルの状況であると思う。実体経済はデフレと低成長のリスクが高く、住宅価格の下落や雇用不安の中での消費の手控えや景気悪化を懸念した設備投資の停滞がその背景にはある。今後の景気の先行きを見る上でも、米国の金融が立ち直ったかの見極めが重要である。

米国の金融システムはリーマン・ショックの後遺症に悩み経営方針が明確でない投資銀行、CPや社債市場での資金調達が難しく不良債権も抱えるノン・バンク、ボルカー規制により活動を大きく制約される商業銀行、と三重苦とも言うべき状況にあると思う。このような中で、かつては投資銀行やノンバンクが成長のための資金を多様な形で提供していた米国の中堅企業向けのファイナンスはどうなっているのか。

この問題意識もあり、米国在の日本の総合商社の金融マンに実情をコメントしてもらった。寄せられたレポートは概要下記のようなもので、筆者の懸念がかなり当たっていると思う。
(引用に当たってはカッコ内に筆者の解説を加えました。)

「暫くフリーズしていた大手金融機関が中小企業向けビジネスを再開(再参入)したというニュースはあり、盛んに中小向けに貸し付けると広告宣伝していますが、実態面は未だ降ろしていたシャッターを開けた程度で本格的な与信活動の復活には程遠い状況かと思われます。鶏と卵ですが実態面で中小企業の営業環境未だ改善には遠く、貸し倒れ率も大きな改善とまではいっていません。」

「今の局面は敢えて中小に行かず大手向け融資でメザニンも含め高スプレッドを追求するという融資姿勢が目立ちます。」(リーマン・ショック後は基準金利率への上乗せ分である貸出スプレッドが大企業でも広がったので銀行はその貸付けに集中し、中小企業向けの貸付には熱心ではない。さらに利幅を有利に取れる劣後ローンなどのメザニン貸付けも大企業には手がけている)

リスクキャピタルの橋渡し、「又、新BISも含めた規制への対応で相変わらず(企業向け融資などの)リスクアセットの積み増しにナーバスになっているのも融資姿勢が緩まない大きな要因でしょう。証券化業務を行う能力を持つ大手金融機関でもアセットクラス(証券化に組み入れるローンなどの資産)の選別がまだ厳しく、自動車ローン等の残存価値リスクが極めて判断しやすい担保付債権ビジネスのみが開店中で、過去のような多様な証券化ビジネス復活の兆し無しという状況です。」

「米国投資銀行は、流石に自己勘定でのプライベート・エクィティ(バイアウトなどの未公開株ファンドなどの投資)活動は静かになりましたが、その他はバンカーのカルチャー・マインドセット(ハイリスク・ハイリターンの投資で自己の利益向上を最優先する)が変わるようなことも無く、リスクキャピタル(企業の成長のための必要な資金)を積極的に橋渡しして企業活動に貢献しようというメンタリティーになる日がいつ来るやらという感じです。」

米国の金融システムには未だ隠れた巨大なリスクがある。リーマン・ショック後にFRBが購入した巨額の不動産証券化や資産の流動化商品である。これらの金融商品はいわばFRBが保有し「緊急集中治療室」に入っているものであるが、ほとんど回復の見込みがない。低成長の中で金融システムにこのような時限爆弾を抱える米国の経済の先行きは楽観を許さない。

(文責:門多 丈)

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