ブログ詳細

コーポレートガバナンスとITガバナンス 安田 正敏

2010年09月21日
コーポレートガバナンスが経営者の戦略設定及びそれを遂行するための業務の執行、リスク管理、業績の評価等を通じて企業価値を増大させることを保証する仕組であるならば、まさに企業戦略の遂行を担うITの活動を企業の戦略に整合させ、適切な資源配分により費用対効果を最適にすることは取締役会及び取締役の責務です。
9月28日開催の当研究会の月例勉強会のテーマは「クラウドとコーポレートガバナンス」です。クラウドとは、インターネット環境を通じる企業や個人に対する情報とアプリケーションの提供、インターネット環境を構成する情報ネットワークと情報プラットフォームを含む情報インフラの全く新しい利用形態を包括的に指しています。企業に限定していうと、クラウドは企業に対してIT戦略の根本的な見直しを迫る新しい潮流といえます。
その具体的な説明は勉強会の講師、吉丸成人氏(監査法人トーマツ、シニアマネジャー)に譲るとして、クラウドがコーポレートガバナンスとどのような関係にあるのかを説明したいと思います。その鍵となる言葉が「ITガバナンス」です。米国のITガバナンス協会が刊行した「取締役のためのITガバナンスの手引き」(注)によれば、

「ITガバナンスとは、取締役会ならびに役員の責務である。ITガバナンスとは企業のガバナンス全体の不可欠な構成要素であり、組織のITが組織の戦略ならびに目標を維持発展させることを保証するリーダーシップと組織構造、さらにプロセスから構成されている」

と定義されます。
つまり、この定義を筆者なりに解釈すると、コーポレートガバナンスが経営者の戦略設定及びそれを遂行するための業務の執行、リスク管理、業績の評価等を通じて企業価値を増大させることを保証する仕組であるならば、まさに企業戦略の遂行を担うITの活動を企業の戦略に整合させ、適切な資源配分により費用対効果を最適にすることは取締役会及び取締役の責務であると言っているのだと思います。
実際、2006年ごろから始まったJ-SOX対応の内部統制の見直しにおいて、日本企業の多くが、「企業戦略の遂行を担うITの活動を企業の戦略に整合させ、適切な資源配分により費用対効果を最適にすること」がほとんどできていないことを痛感していました。また、その機会を捉えて状況を改善した企業も少なくないことを聞いています。

企業にとってIT資源の所有と企業戦略遂行のためのIT利用のあり方を根本的に見直すことを迫るクラウドは、J-SOXにつぐITガバナンスの見直しの絶好の機会を意味しており、コーポレートガバナンスの中枢を担う取締役会、取締役及び監査役も、このクラウドの企業経営に対するインパクトを理解することは重要であると思います。

注:"Board Briefing on IT Governance, 2nd edition"( IT Governance Institute)の日本IT
  ガバナンス協会訳による日本語版より。

(文責:安田正敏)

この記事に対するご意見・ご感想をお寄せください。


こちらのURLをコピーして下さい

お問い合わせ先

一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会

ページトップへ