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怖いものには蓋?-EUの銀行が抱えるリスク 安田 正敏

2010年09月08日
9月7日のウォールストリートジャーナル電子版(WSJ)は、EU の91行のストレステストではEUの銀行が抱えるギリシャ、スペイン、ポルトガルなどの国債保有に係るリスクが相当に過小評価されていることを指摘しています。このような「怖いものには蓋」という姿勢では、銀行のリスクマネジメントの目的を達成できません。
7月23日のブログで書いたEUの91の銀行のストレステストに関するフォローアップです。このストレステストは、経済環境や資本市場が非常に厳しい状況になった場合を想定して、対象銀行の資産に与える影響を評価するものです。7月23日のブログでは、このストレステストが規制当局である欧州銀行監督委員会(CEBS: Committee of European Banking Supervisors )の緩い仮定のもとに行われ、その結果が、バーゼル委員会の自己資本規制の緩和(昨年12月発表の規制との比較)に影響を与えていることを指摘しました。

9月7日のウォールストリートジャーナル電子版(WSJ)によると、EU の91行のストレステストが対象としたEU諸国の国債の保有残高が、実際の保有残高よりかなり少ないものであったということが報告されています。つまり、EUの銀行が抱えるギリシャ、スペイン、ポルトガルなどの国債保有に係るリスクが相当に過小評価されているということです。この事実は、国際決済銀行(BIS)に報告されたデータや銀行が開示する財務諸表などから確認できるということです。例えば、フランスの場合、ストレステストを行った銀行は4行でフランスの全銀行の総資産の80%を占めます。これらの4行がストレステストの対象にしたスペイン国債は66億ユーロ、ギリシャ国債は116億ユーロ、ポルトガル国債は49億ユーロでした。ところが、BISのデータによるとフランスの全銀行の保有するスペイン国債は347億ユーロ、ギリシャ国債は200億ユーロ、ポルトガル国債は151億ユーロです(9月8日、1ユーロは約106円です)。ストレステストをした4行と全銀行の比較ですから正確な比較ではありませんが、4行の総資産の割合が80%であることを考えると、明らかにストレステストがこれらの国々の国債に係るリスクを過小評価していることが分かります。

この事実からすると、ストレステストを行った時期が、ギリシャ危機が表面化した時期の直後でもあり、CEBSは、EUの銀行が抱える巨額のソブリン・リスクをすべて開示するよりは、トレーディング目的保有の国債を対象外にするなどの何らかの理由をつけて、少な目のリスクを開示するように意図したと推測せざるを得ません。

しかし、このような「怖いものには蓋」という姿勢では、銀行のリスクマネジメントの目的を達成できません。そもそも、今回の金融危機の傷を深くした大きな原因は、規制当局をはじめ、銀行の抱えるサブプライム・ローン関連のリスク露出額を誰も把握できなかったことでした。この教訓を生かせず、表面的に金融市場を取り繕うという考え方からは、金融危機の再発を断固防ぐという規制当局の気概を感じることはできません。

(文責:安田 正敏)

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