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「策あるのに鈍すぎる」のは企業経営者 門多 丈

2010年08月31日
急激な円高と株安の動きに対しマスコミは「政府・日銀は及び腰」と批判し、「策あるのに鈍すぎる」とまで言っている。グローバルな経済やビジネスの環境の変化の対応が遅れている点では、日本の企業経営者こそ「策あるのに鈍すぎる」と言われるべきではないか。
実践コーポレートガバナンス研究会の8月の月例勉強会は若杉敬明教授に講師をお願いした。長年にわたり経営学やガバナンスの面から日本の経営を観察されている教授からは、現在の日本の経営について「短期思考でリスクを取らない」などの厳しい批判があった。「資本主義のルールの中では、利益を上げない会社は責任を果たしていない」「足元の収益の低さから経営者の身が縮んでいる」などのコメントがあり、研究開発などの投資についても「世の中で追いつかれない技術はない」と強調された。

今回のグローバルな金融危機と急激な円高と株安の動きへの対応でも、これらの批判は日本の企業経営に当たるのではないか。先週の日経新聞1面で「円高、企業が緊急対策」との記事があり、国内主要企業の対策として①生産・調達の見直し、②財務戦略、③追加のコスト低減・値上げなど、が「緊急対策」として報道されている。対策の内容そのものもさほど新味はないが、それよりもこのような対策は円が90円台であった時期(かなりの期間にわたりこのレベルであったはず)に、今回の事態を想定して実行に移しておくべきであったのではないか。日本の企業経営の先見性と戦略のなさ、リスク管理の不徹底は明らかである。今回政府と日銀が追加の経済政策と金融緩和政策を決めたことに対し、ある経営者は「ようやく重い腰をあげてくれた感じだ」とコメントしているが、あまりの主体性のなさに唖然とする。

「空洞化」の議論も中途半端である。そもそも企業経営はグローバル化の中で経営資源の最適な配分を常に考えるべきであり、海外での生産体制の充実を「空洞化」とか「雇用の流失」の点からのみ論じるのは不適切と思う。要は環境の変化の中で研究開発、製造、販売・サービス、原材料調達、の全ての面でいかにグローバルに合理的なポジションをとる(「線引きをする」)かが戦略の課題であり、これについて経営者が自主的、合理的に判断することが重要と思う。円高のメリットと強固な資金調達力を生かし、成長のための積極的な海外M&Aを製造業、金融機関、サービス業などそれぞれの戦略からチャレンジすることも問われている。

(文責:門多 丈)

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