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活かされないJ-SOX内部統制の構築・評価(2) 安田 正敏

2010年08月25日
金融庁の行政処分事例集を見ると大銀行や大手証券会社を含む多くの金融関係会社が、J-SOXへの準備後も内部管理の不備、特に法令順守に係る内部管理の不備があったことが明らかです。この原因は、J-SOX をリスクの棚卸のチャンスとして捉えることをしなかった経営者の姿勢にあり、またその姿勢を正すことができなかったガバナンスの機能不全にあるといえます。
前回のブログで大手損害保険会社のリスクマネジメントの不備が金融庁から指摘されていたことについて、J-SOX内部統制の構築・評価が企業の統制環境やリスクマネジメントの整備に活かされていないことを述べました。これは、金融庁による不備の是正の勧告ですが、筆者は、金融関係の会社の内部統制はどのような状況になっているのだろうという疑問をもって、金融金融庁のウェッブサイトに掲載されている行政処分事例集を覗いてみました(http://www.fsa.go.jp/news/22/20100811-2.html これはEXCELで集計されているため、分析するにも便利な資料です)。すると、この大手損保保険会社の事件などは氷山の1角に過ぎないことが分かり、愕然としました。

この資料は平成14年度から金融関係の会社の処分事例を集計しています。平成14年6月19日から平成22年6月29日までの8年間の処分件数は934件で、そのうち処分の内容が内部管理体制強化、内部管理態勢強化、内部管理再構築、内部管理抜本的見直しなど内部管理の不備にかかわるものが全体の約40%、368件です。J-SOXに対応する初年度である平成20年度から直近までをみると、処分件数216件、そのうち同様の内部管理の不備にかかわるものが全体の約30%の67件、法令違反に係るものが全体の5%の11件となっています。

またJ-SOXに対応する初年度である平成20年度から直近まで、個人及び法人の預金を預かる金融機関については33件、このうち内部管理、経営管理態勢・体制に係るものが全体の60%の20件にものぼります。またこの20件の主たる処分の原因はすべて法令順守に係るものとなっています。また旧証券取引法で証券会社に当たる第1種金融商品取扱業者で見ると、54件あり、そのうち21件が内部管理、経営管理態勢・体制に係るもの、また主たる処分の原因についてはすべて法令順守に係るものです。これらの金融機関の中には、ゆうちょ銀行、あおぞら銀行、新生銀行などの大銀行、野村證券、三菱東京UFJ証券などの大手証券会社が含まれています。

J-SOX適用に備えて、すべての株式上場企業はもちろん、適用にならない企業でも志ある企業は内部統制の構築・整備に多大な労力と費用をかけてきたはずです。しかし、ここで処分された金融関係会社の内部管理体制がこのような状況であることは、その取り組みが間違っており無駄な努力であったことを物語っています。内部統制報告書に「当社の財務報告に係る内部統制は有効に機能しています」ということを書くために、こまごまとした手続きを文書化するために多大の費用をかけるだけで、つまり木や葉を見るだけで森を見る姿勢が欠けていたといえるでしょう。この原因は、J-SOX をリスクの棚卸のチャンスとして捉えることをしなかった経営者の姿勢にあり、またその姿勢を正すことができなかったガバナンスの機能不全にあるといえます。

(文責:安田正敏)


コメント

生かされないJ-SOXの内部統制構築・評価 三神 明 | 2010/08/27 11:43

J-SOXには元々制度上の無理があり、監査法人の監査証明を得るための作業と考えるべきで、実務家の立場から言えば、全く無駄な作業と言わざるを得ません。


現実はおっしゃる通りです 安田正敏 | 2010/08/31 15:11

三神様、コメントありがとうございます。また、ウェブサイト管理者の休暇でコメントの掲載が遅れたことをお詫びいたします。 
現実に起きたことはおっしゃる通りで、これは個別企業のリスクプロファイルを無視してマニュアル依存で押し通した監査法人が多かったと企業の現場の声を聞いております。監査法人の責任もさることながら、監査法人に対してもの言えなかった経営者の責任も大きいと思います。

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