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金融政策は万能か 門多 丈

2010年08月23日
急激な円高を受けて日銀の金融政策へのバッシングが目立つが、批判の内容は論理的ではない。今回の円高は米国の深刻な問題に起因するものであり、投機的な資金の動きによる面が大きい。今政府に必要とされるのはグローバルな経済環境の変化を踏まえた総合的な財政・経済政策であり産業政策である。
急激な円高や景気の減速を受け日銀の金融政策へのバッシングが強まり、日銀包囲作戦も始まっている。この間の日銀の金融政策についての批判は論理的ではなく、感情的または政治的なものを感じる。 まず今回の円高は前回95年の4月とは状況が全く違う。今回の問題の本質はドル安でありユーロ安である。米国では過剰な借り入れの解消や雇用不安の中で個人の消費は落ち込み、商業銀行、投資銀行、ノンバンクがそれぞれの問題をかかえ金融システムが未だ不全に陥っている。欧州でも金融・財政不安と雇用問題もあり経済状況が混迷している。このような環境の中で、今回の円高は「安全逃避」の通貨選択の性格が強い。この事態に対して果たして金融政策で対応するのが妥当であろうか。 米国が金融緩和をしているのだから、それに「協調」し、日本も一層の金融緩和をすべき(それをしないから円高になった)と論ずる向きもある。筆者は国それぞれでファンダメンタルズが違う中で、金融政策の国際的協調は理論的にはあり得ないと考える。2008年のリーマン・ショック直後のG20サミットのタイミングにも、先進各国の金融政策での協調が主張された。この中で日銀のみが利下げを行わなかったことで批判もされた。その後のFRBなど各国の政策当局や中央銀行の危機対応面でのダッチロールを見る限り、日銀があの時点で利下げ「協調」しなかったことで徒に批判される理由はないと思う。 オペレーショナルな面では、今回の円高の仕掛け人がヘッジファンドなど国際的な投機集団だとすると、これに金融政策で対抗するということも合理的ではない。 今回の事態に対して今こそ大局観を持って当たるべきではないか。一つはグローバルなドル弱体化の流れを読むことである。現在の円高騒ぎは未だドル経済圏の発想の中のものであり、人口比率でも明らかなような先進国と新興国の今後の経済バランスの変化をにらんだ経済・産業政策も議論すべきではないか。また日本の目指す成長戦略は輸出依存・外需頼みの産業構造からの脱却のはずであり、急激な円高での輸出産業の「悲鳴」のみを報ずるのも論理的ではない。グローバル化を目指すのが国の基本方針がある中で、円高により国内産業が「空洞化」すると論ずる風潮も奇異に感じる。円高は海外進出や海外資産への投資への弾みとも考えるべきではないか。 今政府に必要なのはグローバルな経済環境の変化を踏まえた総合的な財政・経済政策であり産業政策である。具体的にはムダ遣いによる支出を減らし、消費税の増税などでの長期的な財政の健全化、法人税減税(その際は以前ブログで書いたように労働分配率は上げる)も含めた企業のグローバル競争力強化、国内の規制緩和も伴った内需拡大、を議論の中心にすべきではないか。 (文責:門多 丈)

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