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活かされないJ-SOX内部統制の構築・評価(1) 安田 正敏

2010年08月20日
大手損害保険会社のリスクマネジメント体制の不適切さが金融庁から指摘されています。リスクマネジメントを生業とする会社の紺屋の白袴的な失態です。筆者が不思議に思うのは、いわゆるJ-SOXによる内部統制の構築においてこのような体制がなぜ見落とされていたかということです。
8月19日の朝日新聞朝刊は、「国内損害保険大手のMS&ADインシュランスグループ傘下の住友海上火災保険が英国子会社の事業で約360億円の損失を出したことについて、日本の本社の子会社を管理する体制の甘さが原因だと金融庁から指摘されていたことが18日分かった」と報じています。

この損失は、2007年4月、英国子会社MSILが、ある金融機関に対する信用保険を販売したことから、2008年秋の金融危機でこの金融機関が出した損失に対して2009年9月までに約360億円相当の保険金を支払ったことによるものです。

金融庁の指摘は、昨年11月から今年2月に実施した検査で、「(リスク管理上の)牽制機能が適切に働くような体系になっていない」ということです。具体的には、「信用保険を含む海外事業の拡大を進める役割と、信用保険から損失が出るリスクを管理する役割を、同じ役員が担っていた」ということです。しかも、「信用保険の損害リスクを検証する部署が、信用保険を売る前に『リスク管理上の問題がある』と役員に報告していた」にも拘わらず、「本社の役員会議ではリスク管理をめぐる具体的な議論は行われなかった」ということです。
事業の推進と事業に伴うリスクを管理する部門が独立していなければならない、つまり異なる人間に管掌されなければならないということは、リスクマネジメントの基本のであることは言うまでもありません。リスクマネジメントを生業とする会社の紺屋の白袴的な失態です。ここで筆者が不思議に思うのは、いわゆるJ-SOXによる内部統制の構築においてこのような体制がなぜ見落とされていたかということです。

2008年度の同社の内部統制報告書の3【評価結果に関する事項】は「上記の評価の結果、当事業年度期末時点において、当社の財務報告に係る内部統制は有効であると判断いたしました」とされています。この点については、「財務報告に係る内部統制は有効である」という点を「財務報告に虚偽の記載がなされることを防ぐ十分な内部統制が機能している」という解釈に限定するならば法律の要件を満たしているといえるでしょう。しかし、相当のコストをかけて内部統制の整備と評価をおこなっていながら統制環境やリスクマネジメントについて十分な注意を払わず適切な体制を整備していないとしたら、これは経営の怠慢としかいいようがありません。

J-SOXは企業に多大な負担をかけるだけの悪法だという意見も有力ですが、内部統制報告書に「財務報告に係る内部統制は有効である」ということを書くためだけにそれだけの費用をかけることに終わるならばその指摘も一理ありましょう。逆に言えば、そのような企業が多いからJ-SOX=悪法論が力をもつのかもしれません。

(文責:安田正敏)

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