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責任の所在を明確に 門多 丈

2010年08月18日
最近、発言や行動での責任が不明な、気になる事例が幾つかある。振興銀の債権二重譲渡問題、GMのIPO計画、トヨタ・リコール事件時の経済産業大臣発言、である。
最近、発言や行動での責任に関し、私にとっては不可解な事例が幾つかある。これらの状況は複雑で事実関係も明確に掴んでない段階でのコメントではありますが、皆様からの情報や意見を頂ければ嬉しいです。

振興銀の債権二重譲渡問題;

日本振興銀行がSFCG(旧商工ファンド)から譲渡された債権について、二重譲渡問題が裁判で争われていて、これまでの判決では振興銀が敗訴している。本件が振興銀にとっては管理審査の問題なのかリスク管理の問題なのかが見えにくい。このような巨額の「不良債権」の発生したのは、そもそも通例ではない取引(貸付け債権のセカンダリー市場での購入)を取り上げたことの問題なのか、担保設定など債権保全上の手続き面での失策であったのか、の点である。

本件はSFCGから持ちこまれた案件で、当初から経営も関与していたであろうことから、企業としての内部統制が機能しなかった懸念も大いにある。いずれにせよ経営の責任とガバナンス面での問題は大きく、敗訴が決定した段階では厳密にこれらの点を調査すべきであろう。SFCGからの債権譲り受けが無効となり、振興銀に損失が発生した場合には、振興銀がSFCGに損害賠償を請求することとなろう。その際はSFCGとの債権譲渡取引の実態と振興銀の最高経営幹部の関与の状況が全て明らかになるであろう。

GMのIPO(株式再公開)計画;

ついこの間、法的整理をしたばかりのGMが、「業績回復」での足元の好決算を受けてIPOを計画中という。政府にとっては公的資金の回収(オバマ政権にとっては中間選挙を控え公的資金投入の成果を誇示したい?)、組合にとってはレガシー・コスト(年金やヘルスケア制度のコスト)削減の見返りとして受け取った株式の現金化、が狙いであろう。

ただあまりにも早い時期の「市場復帰」は法的整理の「犠牲」となった、かつての株主や債権切り捨てに応じた金融機関にとっては、何ともすっきりしない展開ではないか。特に今回の好決算に法的整理に伴う利払い負担の軽減も貢献しているとすれば、債権切り捨てを強いられた金融機関の株主にとっては大いに不満が残る(債権切り捨ての際に debt equity swap でGMの株を受け取っていればIPOによる利益もあり少しは違うとも思うが、その状況は確認できていない)。IPOによって新規に株主を募ることとなるが、その際は今後のGMの事業戦略の優位性と収益性について市場関係者の納得を得るとともに、ガバナンス上の問題も含めGM破綻についての明確な総括を行なうべきであろう。

米国でのトヨタ・リコール事件と経済産業大臣発言

米国でトヨタ自動車のリコール事件が最大の沸騰を見せていた際に、直嶋経済産業大臣が「トヨタにはしっかり対応して欲しい」と発言した。米国でのトヨタ批判にあたかも同調したような傍観者的な発言は一国の政府の規律(ディシプリン)の面では大いに問題がある。

まずは日本政府としてどこまで独自に情報を集め状況を調査していたかである。最近のウォール・ストリート・ジャーナル紙は米運輸省がその時点でトヨタに有利になる調査結果の公表を意図的に避けていたと報じたとのことである。具体的には同省が急加速を訴えた23台について調査を実施したところ、全事例でブレーキが踏まれていないことが判明していたという。

日本の企業が海外で「事件」に巻き込まれた際には、政府はまずは(広義の)国益を守るべく動くべきである。当時のトヨタ批判が米国のGMの経営破綻とトヨタのマーケット・シェアの上昇が背景にあったことは明らかである。その際に米国でのトヨタ批判に同調するような発言はよもやすべきではなかったのではないか。

(文責:門多 丈)

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