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コーポレート・ガバナンスと経営学 門多 丈

2010年08月06日
加護野教授ほかの著書「コーポレート・ガバナンスの経営学」を読み、日本のコーポレート・ガバナンスの問題を考えるヒントを得た。具体的には「誰が取締役、社長、監査役を選んでいるか」についての分析、投資戦略や資本戦略におけるエージェンシー問題、などである。
神戸大学の加護野教授ほかの著書「コーポレート・ガバナンスの経営学」(有斐閣)を読み、幾つか日本のコーポレート・ガバナンスの基本的問題を考えるヒントを得た。

一つは「誰が取締役、社長、監査役を選んでいるか」の点である。現実には多くの会社では取締役会に次期の取締役選任を社長が諮り、その内容で株主総会に提案するようになっている。株主からの独自の提案がない限りそのように取締役が選ばれ、その中から社長が「選ばれる」こととなる。「コーポレート・ガバナンスの経営学」の中では経済同友会のアンケート結果として「取締役会を構成する取締役が事実上代表取締役により任免されている」という報告が引用されている。

このような状況で社長が「お前を取締役にしてやったのは俺だ」と発言し、社内取締役が社長の経営になかなか異議を唱えられない風土が形成される。監査役の選び方も同じであり、株主のための監督という力も弱まる。やはり社外取締役中心の指名委員会が機能を発揮すべきであろう。

本書で日本の経営やガバナンスの歴史についての理解を深めた。「戦前日本におけるコーポレート・ガバナンスの構造は古典的な株主主権に近い性格をもっていた」との解説があり、その背景として有力な株主となりうる大資産家が多数存在し、自己資本比率も高かったとある。また銀行は企業金融、とくに長期金融のそれに対して、大きな役割を果たさなかったとか、従業員の会社に対する定着率は低かった、などの分析も興味深い。

「コーポレート・ガバナンスの経営学」の後半ではエージェンシー問題(株主のエージェントである経営者が必ずしも株主のために行動しない問題)を幾つかの点から分析している。具体的には投資・M&A戦略(拡大投資vs 効率投資)、資本戦略(株式持ち合い、配当、負債比率)において株主と経営者の間で利害対立が起こる可能性である。コーポレート・ガバナンスの実践の面でも参考になるポイントである。

「コーポレート・ガバナンスの経営学」の中で論述される日本のガバナンスの歴史も興味深い。具体的には三井家の資本・所有形態、藩や商家でのトップの強制交代の仕組み、などは、日本の企業統治の伝統や考えを理解するための事例が多数紹介されており参考になる。

(文責:門多 丈)

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