ブログ詳細

IPO-利益相反が潜在する証券会社の役割 安田 正敏

2010年08月06日
最近、「上場詐欺事件」が2件続けて起きています。上場基準の中で重要なチェック機能を果たすことが期待されている主幹事証券会社の多岐にわたるサービスの間には基本的に利益相反の問題が内在しています。この利益相反から起きる問題を防ぐための主幹事證券会社の体制とルールが機能しているかどうか疑問が生じます。
日経ビジネス8月2日号の「敗軍の将、兵を語る」で6月に粉飾決算が発覚したシニアーコミュニケーションが取り上げられています。詳しい内容は同誌をご覧頂きたいと思いますが、この粉飾決算の特徴は、2005年に東証マザーズに上場する前から上場のために粉飾決算をしていたことです。また、同記事には、5月には半導体製造装置メーカーのエフオーアイが株式上場直前の2009年3月期の売上高を100億円も水増ししていたことが発覚し、昨年11月の上場から7ヶ月後の6月に破産している事件も言及されています。これらの事件は、いわゆる「上場詐欺」といわれても仕方のない行為です。

東証マザーズは、有望な企業を支援するために、「次世代を担う高い成長性を有した企業に、早期の資金調達の途を確保し、企業の一層の飛躍を促す市場として、日本のセントラルマーケットである東証が開設している市場」(東証資料)です。このために、1部、2部への上場と比較し、比較的緩い上場基準をとっています。財務的な面では、「『利益などの財務数値』に関する基準は設けていません。」(東証資料)ということです。また、「上場審査の期間についても、市場1部、2部と比較して、短い期間での上場審査を想定しております。」、「提出書類においても、市場1部、2部と比較して、申請会社への負担が軽減されるよう一定の配慮をしています。」(東証資料)というように、手続そのものも緩やかな基準になっています。

このような緩い基準の中で、重要なチェック機能を果たすことが期待されているのが主幹事証券会社と監査法人です。監査法人は、経理決算体制の整備に責任を持ちますが、主幹事証券会社は、いろいろな面でいろいろな組織が関与します。まず営業部門(例えば法人営業部など)が窓口となり企業のニーズを汲み取ります。そして具体的なニーズに基づいて、資本政策立案、申請書類作成指導、公開審査(引受審査部など)、東証や金融庁などに対する申請業務、株価算定、新株引受など多岐にわたったサービスを行います。また上場後は、IRサービス、ファイナンスへのアドバイスなどのビジネスにつなげていきます。

ここで問題なのは、これらの多岐にわたるサービスの間で利害相反が潜在していることです。例えば、営業部門は、適正な公開準備や公開審査よりも案件の成立自体に重点を置く傾向に陥りやすいこと、公開準備と公開審査の間の軋轢などです。もちろん、証券会社もこの点に十分配慮して営業部門、公開引受部門、公開審査部門の独立性を保つような体制とルールをつくっています。しかしながら、公開案件がなくなれば引受手数料などの主要な収入はなくなるというプレッシャーが公開審査部などにかかってくるとすれば、その体制及びルールがきちんと機能するかどうかという点について考えざるを得なくなります。

ここに挙げた二つの「上場詐欺事件」については、二つとも上場主幹事はみずほインベスターズ証券ですが、東証マザーズの開設理念を全うするためにも、みずほインベスターズ証券だけでなく上場主幹事を勤める証券会社は、もう一度、これら部門間の実質的な独立性を見直す必要があると思います。

(文責:安田正敏)

この記事に対するご意見・ご感想をお寄せください。


こちらのURLをコピーして下さい

お問い合わせ先

一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会

ページトップへ