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ストレステストのストレス 安田 正敏

2010年07月28日
7月23日、欧州銀行監督委員会は域内20ヶ国、91の銀行のストレステストの結果を発表しました。ストレステストの結果は株式市場あるいは投資家が予想していたよりは良く、好感をもって迎えられたようです。しかし、このストレステストにストレスを感じる理由がいくつかあります。
7月23日、欧州銀行監督委員会(CEBS:Committee of European Banking Supervisors)は、域内20ヶ国、91の銀行のストレステストの結果を発表しました。この91の銀行は域内20ヶ国の全銀行の総資産のうち65%を保有しています。

ストレステストとは、経済環境や資本市場が非常に厳しい状況になった場合を想定して、対象銀行の資産に与える影響を評価するものです。今回のストレステストのシナリオは標準シナリオ、悪化シナリオ、最悪シナリオのもとで行われ、最悪シナリオは悪化シナリオにソブリン債市場の混乱が生じた場合を想定しています。日経新聞7月24日の記事によれば、「株価や国債市場の下落など20年に1度の市場環境を前提にした」とされています。ここではシナリオの詳細については触れるスペースがありませんのでCEBSのウェブサイト(http://www.c-ebs.org/EuWideStressTesting.aspx)を参照してください。

この日経新聞の記事によると、ストレステストの結果はドイツ(1行)、スペイン(5行)、ギリシャ(1行)の計7行で35億ユーロ(約3,900億円)の資本不足が懸念されるとされています。この結果は株式市場あるいは投資家が予想していたよりは良く、好感をもって迎えられたようです。

しかし、手放しで安心していられない理由があります。それは、このストレステストの前提として、国債がデフォルト(債務不履行)になることはありえないとして、「満期まで保有する目的」の国債をこのストレステストの対象としていないことです。日経新聞7月27日の朝刊の記事によると、この91項のうち主要10銀行のギリシャ、スペイン、ポルトガルの国債保有残高が合計で1,540億ユーロ(約17兆円)に上ること、そのうち80.1%(14兆円弱:筆者注)が「満期まで保有する目的」であることが報告されています。

「国債がデフォルト(債務不履行)になることはありえない」という前提は歴史上何の根拠もないことで、ごく最近では2001年のアルゼンチンのデフォルトが記憶に新しいところです。債券がデフォルトになった場合は満期保有目的でも減損を免れません。また、1国のデフォルトは他の国のデフォルトに連鎖する可能性も無視できません。したがって、そのインパクトはこの数字から見て相当大きいことが予想されます。

筆者から見てやや楽観的に見えるこのストレステストにストレスを感じるのはもうひとつ理由があります。それは、このストレステストの結果が、7月26日に発表されたバーゼル委員会の自己資本規制バーゼル3に影響を与え、昨年12月の案に対してかなり緩和されているからです。この点については、ウォールストリートジャーナルも7月27日の電子版の記事で「なれあいのストレステストに続く優柔不断の自己資本規制:Wishy-Washy Capital Rules Follow The Cozy Stress Test」で指摘しています。

これらの流れから筆者が懸念するのは、銀行および銀行システムのリスクマネジメントの強化と銀行の収益性回復という二つの重要な課題のバランスが、やや後者に傾きつつあり、またいつか来た道に引き返しているのではないかということです。

(文責:安田正敏)

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