ブログ詳細

米金融規制改革法の先にあるべきもの 門多 丈

2010年07月23日
金融規制改革法が可決されたが、商業銀行・投資銀行の社会的ミッションについての議論が欠落している。金融機関のコーポレートガバナンスについて議論も深まっていない。米国の金融システムの再構築には、広義のノンバンク業の復活が鍵である。
米上院が金融規制改革法を可決した。改革法の主な内容は銀行によるデリバティブ取引の制限、ヘッジファンドなどへの投資の規制、投資銀行業務の分離、などである。今回の規制の背景には、リーマンショック後の金融危機の中で、不動産貸付けの証券化商品やCDS(信用破綻スワップ)などのデリバティブ商品の巨額な評価損を蒙った米国の多くの金融機関が、自己資本の毀損による実質破綻の状況になったことについての金融行政の反省がある。

リーマンショック後の金融危機の際にToo big to fail の判断のもとで政府が大手銀行などに公的資本を注入したことについては国民の批判が強い。米国政府は政治的には将来この手段は取れないと判断し、銀行の高リスク投資を制限することで将来金融機関が経営危機に陥った場合も公的資金を使わずに金融界の負担で処理する、という考えかたがこの「改革法」に反映されている。

「改革法」の成立に当たり銀行の経営者や株式市場は諸規制による銀行の減収に主な関心を向けている。この場で論じるべきはデリバティブ取引の制限やヘッジファンドなどへの投資の規制による銀行の業務収益の減少についてではなく、銀行が社会的使命を果たし経済成長に資する金融システムの中でいかに貢献していくかであろう。商業銀行には事業や健全な生活のための資金の円滑な供給、投資銀行には企業成長のための資本(リスク・キャピタル)の供給というミッションがある。

金融危機の反省の中でこのような議論が深まっていないのは異常ともいえる。同様に今回の危機からコーポレートガバナンスの面での将来に向けての総括や議論がほとんどされていないのも問題だ。この点では英国のFSA(金融サービス機構)がガバナンスの観点から「社外役員の質」重視の方針を取ると報道されていることが興味深い。

米国の金融システムの再構築は楽観を許さない。システムの重要な担い手である広義のノンバンク業がどう復活するかが読めない。ノンバンクは事業金融、リース、資産の流動化などで成長のための資金を中堅・小企業に提供している。金融危機の中でノンバンクの主要な調達源であるCPや社債の金融資本市場で資金が枯渇し、資金調達不能により大手のCTI社などは破綻しGEは金融事業を縮小した。MMF、生保、年金基金などの資金の出し手の金融資本市場への信頼は未だ十分には回復していない。バーナンキFRB議長が議会証言で景気の下振れの可能性について「異例な不確かさ」と表明したが、このような金融資本市場の実態も考慮しているとも思う。

(文責:門多 丈)

この記事に対するご意見・ご感想をお寄せください。


こちらのURLをコピーして下さい

お問い合わせ先

一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会

ページトップへ