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振興銀事件とガバナンス問題 門多 丈

2010年07月20日
振興銀事件では社外取締役が経営の業務監視の責任をどう果たしていたかに疑問がある。社外取締役であった「江上剛」氏の責任は重く、振興銀の新社長就任は納得できない。経営の暴走を抑えるには社外取締役が重要であり、今回の事件の教訓は取締役会が有効に機能するためにはどのような仕組みが必要かという点にある。
日本振興銀行は取締役会では社外取締役が多数となっており、ガバナンスで先進的な体制を取っていたはずである。事件の全容は未だ明らかになっていないが、今回の事件に関しての社外取締役の経営の業務監視の責任について幾つかの疑問がある。

第一の疑問は、大口融資などの重要な取引が然るべく取締役会に諮られ議論されていたかである。取締役会は当該企業の業務の特性を考慮し、経営に重要なインパクトを与える方針や活動は必ず取締役会に諮られるようにルールを決める責任がある。このルールに基き取り扱いの方針や規定を明文化するが、これは金融庁の銀行の内部統制に関する検査の最重要項目でもある。SFCG(旧商工ファンド)ヘの債権譲渡ファイナンスなどでは取引の異常性、リスク、今回問題となった出資法違反の金利設定など、取締役会がリスクフォーカスの姿勢に徹していればチェックできたのではないか。

第二の疑問は、経営執行レベルでの木村前会長の暴走を知りながら放任していた点である。木村氏の独断専行は著しいものでワンマン経営者として執行役に強引な指示をしたり、然るべき決定を経ないで融資の実行を行っていたという。社外取締役としてはこのような社内の異常な体制や雰囲気を察知し大事に至る前に手を打つべきではなかったか。

第三の疑問は「機関銀行化」問題である。広く一般から預金を集める銀行が関係会社や主要株主の企業に対し「有利な」貸付けを行う問題である。木村氏が理事長として設立した中小企業振興ネットワークは明らかに「機関銀行化」の道具に使われた。取締役会はこのような利害相反行為を見逃すべきではなかった。ネットワークのメンバーとなることで
振興銀の融資を受けやすくする仕組みを作ったわけである。その中でネットワークのメンバーは振興銀への出資を「強制」された。(この資金は振興銀からの借り入れで賄った)。また大口融資規制逃れのためにメンバー間での転貸も強制されていたという。明らかに優越的地位の乱用である。

これらの点からは社外取締役であった「江上剛」氏の責任は重く、振興銀の新社長就任は納得できない。ガバナンス議論では今回の事件が社外取締役不要論の好材料に使われそうであるが、逆に内部の人間だけの執行役会の機能不全を改善し経営者の暴走を抑えるには有能で独立性の強い社外取締役こそ重要である、ということを示したのではないか。今回の事件の教訓は取締役会が有効に機能するためにはどのような仕組みが必要かという点にあると思う。

(文責:門多 丈)


コメント

拙稿に嬉しいコメントありました 門多 丈 | 2010/07/29 15:29

私の以前の会社での先輩から拙稿にコメントありました。このブログについては多くの方から「同感」と言っていただいています。コメントをいただくことで私もさらに考える機会となっています。いただいたコメントの一部を下記にご報告します。 

「振興銀行」のブログ読みました。 100%アグリーです。委員会制度における「社外取締役」は、私の様な「社外監査 役」と同じと認識しておったのですが、その方がどんな認識で社長に就任されたの か、理解に苦しんでおりました。 私は社外監査役として、社長をウオッチしておりますが、基本的には、監査役の権限 をこれ以上高める必要はないとの考えであります。監査役は検事ではなく、目的は 経営執行側と同じとの認識は変わっておりません。その中で、社長が本来の経営判断 に逸脱した行為をしようとした場合、徹底的にディスカッションをし、それでも受け 入れてもらえない場合には、辞職する事と考えております。伝家の宝刀である差し止 め請求権も監査役としてやるべきではないと考えております。監査役の職務はある程 度限界をもったものではならないと考えておるからです。要は、経営トップの心の中 を内部統制等に絡めて、且つ、社外監査役等で、究極的に制御できるはずもありません。ノーブレスオブリージの世界です。マックスウェーバー等の出番です。 話はそれますが、その様な事を考えると現在の経済学は時代遅れではないかと考えている今日この頃です。 

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