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二つの「外部の目」を欠くトヨタ自動車のガバナンス 安田 正敏

2010年07月14日
コーポレートガバナンスの観点からするとトヨタ自動車のコーポレートガバナンスには二つの「外部の目」が欠けているといえます。一つはグローバル企業トヨタ自動車の業務執行を監視する外国人取締役の目、もう一つは社外取締役の目です。
7月12日、トヨタ自動車は日本科学技術連盟と外部専門家により、「品質保証体制の改善に関する評価報告書」(以下、評価報告書)を受領したことをニュースリリースしました。この評価報告書は豊田社長を委員長とする第1回「グローバル品質特別委員会」(2010年3月30日開催)で策定した品質保証体制の見直しと改善を評価したものです。

このニュースリリースによると、品質保証の体制に関しての取り組みにおいて評価できるものと今後更なる改善を要するものについて具体的に言及しています。しかし、筆者がこのニュースリリースの中で注目したい点は、その最後にある、「但し、これら応急対応が継続的に機能していくためには、会社の仕組みに落とし込み、特にトップの行動に関するルール・指針を策定し、これらの有効性を定期的に検証することが必要である。」という文章です。この指摘は、とりもなおさずトヨタ自動車のコーポレートガバナンスを改善していくことが必要であるという指摘であるといえます。

トヨタ自動車の経営制度の特徴は、取締役である「専務」が最高責任者の役割を担い、「常務役員」が実務を遂行するという仕組みになっており、「専務」が経営と現場をつなぐ役割を担うという現場重視の考え方です。

ところがコーポレートガバナンスの観点からするとトヨタ自動車のコーポレートガバナンスには二つの「外部の目」が欠けているといえます。それはトヨタ自動車の2010年6月24日の第106期株主総会の議案の決議事項のうち、第2号議案「取締役27名選任の件」に見ることが出来ます。

一つ目の「外部の目」が欠けているというのは次のような状況を意味しています。トヨタ自動車は平成22年度の世界生産730万台のうち半数以上の約400万台を海外で生産しています。また、世界販売台数900万台のうち輸出を含むと740万台という80%以上の台数を日本国外で販売しています。そのうち海外現地販売台数は580万台にもなります(注)。しかし、この株主総会で選任された取締役はすべて日本人です。つまり、これだけの世界規模の企業でありながら取締役会に外国の人が一人もいないということです。

「外部の目」が欠けているというもう一つの状況は、この27人の取締役の中には、トヨタ自動車グループの外から選任された取締役、いわゆる社外取締役が一人もいないということです。

もちろん、トヨタ自動車も外部の目としては欧米アジアの識者を招いた経営諮問委員会(インターナショナル・アドバイザリー・ボード)を取締役会の外に設けて外国の人々の意見を聞く体制をとっています。また、今回の問題をきっかけにして北米、欧州、アジアの拠点のトップへの権限委譲する体制を進めています。また、冒頭に述べたように、外部の識者に依頼して品質改善体制についての評価を聞く努力も行っています。しかし、これらはすべて業務執行のレベルの努力であり、当然必要であり重要なことではありますが十分ではありません。

つまり、十分なコーポレートガバナンスの機能を確保するためには、これらの業務執行を監視する取締役会の中に外国の人々の目と社外の人々の目をとりいれたガバナンス体制がグローバル企業トヨタ自動車にとって不可欠であるといえます。これがないと、「これら応急対応が継続的に機能していくためには、会社の仕組みに落とし込み、特にトップの行動に関するルール・指針を策定し、これらの有効性を定期的に検証することが必要である。」ということが世界的なレベルで保証されないのではないでしょうか。
 
注:数字は平成22年3月期決算説明会プレゼンテーション資料の数字を10万台で丸め
  たものです。
 
(文責:安田正敏)

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