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コーポレートガバナンス格付(2) 安田 正敏

2010年07月05日
前回、米国のコーポレートガバナンス格付を行っている主要4社を紹介しましたが、今回はそれぞれの格付の特徴を、①格付の対象となる企業と情報収集の方法、②格付の切り口の2つの点について整理してみます。
前回、米国のコーポレートガバナンス格付を行っている主要4社、ガバナンス・メトリクス・インタナショナル(GMI:Governance Metrics International)、インスティチューショナル・シェアホルダーズ・サービシズ(ISS:Institutional Shareholders Services 注参照)、S&Pのコーポレートガバナンス・サービス部門、コーポレート・ライブラリー(TCL:The Corporate Library)を紹介しましたが、今回はそれぞれの格付の特徴を次の2つの点について整理してみます。

① 格付の対象となる企業と情報収集の方法
どのような企業を格付けの対象とするかという点と情報収集の方法については関連性があります。この点については、ISS、GMI、TCLの格付とS&Pの格付を比較すれば良く分かります。

ISS、GMI、TCLは独自の判断で米国を中心に主要国の株式上場企業を広範に格付しています(いわゆる勝手格付)。したがって、情報収集も株主総会招集通知、アニュアル・レポート、会社案内、ニュースリリース、企業ホームページなどの公開情報から収集しており個別のインタビューなどは行いません。その代わり企業に情報を修正する道を残しています。例えば、ISSの場合、企業は無料でISSのウェブサイトにアクセスし自社の情報について過ちがあれば修正できるようになっています。また、企業は自社の格付を改善するためにはどうすればいいかというアドバイスをISSから有料で受けることが出来るようになっています。GMIの場合は、結果をそれぞれの企業に送付し修正を求めて最終的な情報としています。
一方でS&Pの場合は新興国の企業を対象にしており、格付対象企業の同意を得た上でCEO、CFO、取締役(特にチェアマンと独立取締役)、IR責任者、主要株主、主要債権者、及び監査人などとインタビューをします。文書情報についてはISSと同様の公開文書はもちろん内部文書についても相手企業の同意の範囲で閲覧します。

② 格付の切り口
どのような切り口でコーポレートガバナンスの格付を行うかという点は、格付を特徴付けるうえで最も重要です。4社の大きな切り口を上げると次のようになります。
  • GMI:取締役会の説明責任、財務報告と内部統制、株主の権利、幹部報酬、支配と所有に係る市場の状況、企業行動と企業の社会的責任に関する事項。(これらの下に450の小項目)
  • ISS:取締役会、監査、企業憲章・定款、TOBへの防御政策、幹部報酬、取締役・幹部の株式所有の状況、取締役の教育。(これらの下に61の小項目)
  • S&P:株式所有の状況、株主の権利、透明性・監査・エンタープライズリスクマネジメント(ERM)、取締役会の状況(効果、戦略策定、報酬)。(これらの下に98の小項目)
  • TCL:CEO報酬、社外役員の株式所有状況、取締役会の構成、会計監査・業務監査、取締役会の意思決定。
細かな差はありますが、共通する切り口は、取締役会、幹部報酬、監査、株式所有状況となります。これに、GMIとS&Pがあげる株主の権利を加えるとコーポレートガバナンス評価のためのほぼ標準の切り口が見えてきます。筆者は、これに加えてISSのあげる取締役の教育を重要視したいと思います。
次回は、これらの格付がどのような形で公表され、利用されているかという点について見てみたいと思います。

(文責:安田正敏)

注:ISSは2007年1月に米国RiskMetrics社に買収され、2010年6月にはRiskMetrics社は米国のリスクマネジメントに関するコンサルティング会社MSIC社に買収されましたが、ISS部門と格付サービスはMSIC社の事業として継続されています。

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