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失敗が肥やしにならない企業社会 安田 正敏

2010年06月04日
日本企業の業績低迷の根幹的原因は、現在の日本の企業社会の特質、失敗が肥やしにならない企業社会にあるのではないでしょうか。この状況を打破する権限をもっているのは経営者しかいません。その自覚をもってその難しい仕事に経営者が取り組んでいるかどうかを監視し、忠告することが社外取締役の重要な役割のひとつでしょう。コーポレートガバナンスにおいて真の意味での独立した社外取締役の重要性はここにあります。
6月3日付日経新聞朝刊に、「日本企業業績回復海外企業に遅れ」という記事がありました。具体的には、「リーマン・ショック前の07年度の純利益を100とすると、09年度の利益水準は韓国が94、米が76、欧州が57、日本は39だった。」ということです。特に、エレクトロニクス分野では、「多機能携帯端末『iPad(アイパッド)』」などが好調な米アップルは10年度の純利益が市場予想平均で07年度の3.5倍になると見込まれるのに対し、パナソニックやソニーの利益は07年度の2割にも満たない水準にとどまる見通しだ。」ということです。
かつて日本企業の革新技術を代表していたパナソニック、ソニーも海外企業とこれだけの格差がついてしまった現実に目をやると、その原因が何であるのかということに思いを馳せずにいられません。もちろん様々な原因が合い織り成してこういう結果になったのでしょうが、筆者は技術力の格差が業績の格差になったとは思いません。むしろ、技術力とものづくりの力では世界のトップ水準を維持していると思います。筆者は、さまざまな原因の中でも、根幹的な原因は現在の日本の企業社会の特質にあるのではないかと思います。それは失敗を許さない減点主義の社会です。

ひとつの企業で大きなプロジェクトを提案し失敗した場合、その責任者はその会社ではいわゆる出世競争から脱落してしまいます。失敗から多くのことが学べるということは、「失敗は成功の元」と昔の人も言ってきた世間一般の知恵ですが、現在の日本の企業社会ではこの知恵はほとんどの場合、通用しません。この現象を裏側から見てみると、従来どおりのことを無難にこなしていさえすれば減点の対象としない社会であるとも言えるでしょう。

貴重な「成功の種=失敗経験」を持った人が、他の会社でその経験を生かすチャンスが多くあれば、日本の企業社会全体としては、失敗を肥やしにして成長していくことが可能でしょう。しかし、残念ながらこの道も極めて狭いのが日本の企業社会の特質です。このような社会では、積極的にリスクをとって革新的な製品やサービスを他社に先駆けて創り出していくリーダーが生まれる可能性は非常に低いものとなります。したがって、消費者や社会のニーズが急速に変化している現在の世界で、グローバルな競争に勝ち抜くことを企業に期待することは非常に難しくなります。

このような社会的閉塞状況を打破することのできる力を持っているのは経営者です。自らの企業の経営のあり方を変革することにより、日本の企業社会全体の活性化に貢献する責任があるはずです。経営者はそれを実行する権限を与えられています。その自覚をもって難しい仕事に経営者が取り組んでいるかどうかを監視し、忠告することが社外取締役の重要な役割のひとつでしょう。コーポレートガバナンスにおいて真の意味での独立した社外取締役の重要性はここにあります。


(文責:安田正敏)

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