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グローバル金融危機で試された米国金融トップのセンス 門多 丈

2010年05月28日
米国の上院が金融規制改革法案を可決したことに対しJPモルガン・チェースのダイモンCEOはデリバティブ業務などで巨額の減収になると発言したが、規制の導入による自行の収益低下を語る前に経営者として銀行の社会的責任について触れるべきではないか。米国の金融危機に当たりバーナンキFRB議長は証券化商品の巨額な購入で対処したが、同氏が学者であったころの研究テーマであった大恐慌の教訓を実践に生かしたものである。
米国の上院が金融規制改革法案を可決したことに対し、JPモルガン・チェースのダイモン最高経営責任者(CEO)が同行では年間でデリバティブ(金融派生商品)業務で最大30億ドル、クレジットカード関連で15億ドル減収になると発言した。主として投資銀行のプリンシパル・インベストメント(自己勘定での投資やディーリング)を規制する法案で、どのようにして対顧客取引のビジネスでこのような利益減になるか、外部者には理解しがたい。まずはそのメカニズムを説明してもらいたい。

ダイモン会長の発言の背景に、今までは顧客取引をにらみながら自己勘定投資をしていたが、今後それができなくなるというような事情があるとすれば、現在SECが厳しく追及しているゴールドマン・サックスと同じ利害相反の問題が内在していたということではないか。またこの法案の通過にあたって銀行の経営者のコメントが、自行の収益の減少に関してのみというのも解せない。投資銀行の本来の使命は企業の株式や社債の発行を引き受け企業の金融を支援することにあったはずである。現在米国の金融システムの問題はこのような金融媒介機能が著しく低下していると言われる。経営者として問われているのは投資銀行としてリスク・キヤピタルの媒介機能を今後円滑に果たして行くことに関しどのような課題についての説明ではないか。

「バーナンキは正しかったか?」(デイビッド・ウェッセル著、朝日新聞出版刊)を読むと米国の金融危機でのFRB議長として取ったバーナンキ氏の行動の背景が分かり興味深い。FRBで働く前にバーナンキ氏は学者として大恐慌時のFRBの金融政策の失敗を研究していた。その時にバーナンキ氏は大恐慌の原因として、銀行が過度の貸出抑制をし「信用度の高い借り手とそうでない借り手を識別する銀行の特異な知識と能力が活用されなかった」ことと、差し出せる担保価値が減価することでの借り手の信用力が低下、その結果、により融資が受けられず、それが実体経済の悪化につながった、と分析していた。今回の危機においてFRBはバーナンキ議長のもとFRBは金融機関から証券化商品を巨額に買い入れ、金融システムの中の流動性を確保した。FRBのバランス・シートを異常なまでに膨らませたという後遺症は残るが、バーナンキ氏が自己の信念を実践で示したことは評価すべきと思う。

またこの本の中ではグリーンスパン氏のFRB議長としての金融政策の失敗として4項目を挙げている。長期の低金利政策の持続、住宅価格バブルの軽視、サブプライムローン貸付けの警告無視、市場への過度の信頼(金融機関の貪欲と暴走の放置)である。今後のためにも参考にすべき教訓と思う。

(文責:門多 丈)

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