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ソックス(SOX)を脱いだ裸足の銀行 安田 正敏

2010年05月27日
米国の巨大銀行、バンック・オブ・アメリカ(BoA)とシティー・グループ(Citi)がレポ取引による負債を隠蔽していたということが報道されています。こような重大な過ちが米国の巨大銀行の会計プロセスにおいて3年間にわたって見過ごされていたとすれば、米国のSOX法って一体何だったのかという驚きを感ぜずにはいられません。米国の銀行はいつのまにソックス(SOX)を脱いで(あるいは最初から履いていなかったのか?)裸足でガラスのかけらの上を歩き始めたのでしょうか?
米国の巨大銀行、バンック・オブ・アメリカ(BoA)とシティー・グループ(Citi)がレポ取引(注)による負債を隠蔽していたという記事が5月27日付ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のオンライン版に掲載されています。この記事によると、金融危機の最中の過去3年間にわたりレポ取引として負債に計上すべき取引を証券の売却として分類し、バランス・シートに記載しなかったということです。この報道が正しいとすれば、2008年9月に倒産したインベストメント・バンク、リーマンが500億ドル(約5兆円)もの負債をバランス・シートからはずしていたやり方と同じやり方です。

しかし、BoAもCitiも、この分類は手続上の過ちによるもので、決して意図的なものではないこと、金額は相対的に小さく銀行のレバレッジ報告や財務報告に重要な影響を与えるものではないと説明しています。例えばBoAは金額は総資産の1%に満たないと説明、またCitiは2009年末で57億ドル(約5,400億円)、過去3年間で多いときでも92億ドル(約9,200億円)に過ぎないと説明しています。また、Citiは、「非常に小さい規模でこの種の取引をおこなった極めて少数の事業部門」に係るものだと説明しています。ちなみに、この記事は二つの銀行ともそれぞれ2兆ドル(約180兆円)以上の総資産を有すると報じています。

さて、この記事が正しいとしてこれをどう評価するかという問題です。ここでは、当事者の説明する「意図的ではない手続上の誤りである」ということを一応信じることにします。そのうえで2つの問題を指摘したいと思います。

ひとつは、このような負債から得られた資金は、金融商品の取引に使われるということです。確かにCitiのいう92億ドルの負債も総資産のわずか0.5%程度です。しかし、その取引が数倍のレバレッジを持つ、言い換えれば、使用する資金の数倍の金額にのぼる取引であれば、取引金額は総資産の数%まで跳ね上がる金額になるということです。そして、その取引の結果次第では、間違いなく銀行の損益計算書とバランス・シートに重大な影響を与えるリスクを孕んでいます。

もうひとつの問題は、このようなリスクを含む取引の会計上の手続を過去3年間にわたって間違えてきたということです。過去3年間の最初の年は2006年です。2006年といえば、あのSOX法が最初に適用された2004年から2年経った時期にあたります。言うまでもないことですが、SOX法は、企業に「財務報告に係る内部統制」を構築し、評価し、効果的に機能していることを経営者に宣誓させ、もしその事実に虚偽があれば実刑を含む懲罰が経営者に課せられるという法律です。ここで述べられているような重大な過ちが米国の巨大銀行の会計プロセスにおいて3年間にわたって見過ごされていたとすれば、米国のSOX法って一体何だったのかという驚きを感ぜずにはいられません。

筆者は、SOX法の考え方は正しいと思っています。内部統制を有効に機能させれば企業の業績向上に大いに資するものであると信じています。しかし、米国の銀行はいつのまにソックスを脱いで(あるいは最初から履いていなかったのか?)裸足でガラスのかけらの上を歩き始めたのでしょうか?

(文責:安田正敏)

(注):レポ取引
Repurchase Agreementの略。証券の短期間にわたる買戻し条件つき売却。その期間、売却で得た資金を借り入れるという形になる。したがって、単なる証券の売却とは別種の取引。

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