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ゴールドマンサックス(GS)の年次株主総会 安田 正敏

2010年05月24日
GSの2010年の年次株主総会が5月7日に開催されました。この結果を見て驚いたことは、GSの株主は、金融危機以降、金融機関のコーポレートガバナンスの慣行に対して主要国の政府や規制機関が見直しを迫っている点について全く関心を払っていないということです。
GSの2010年の年次株主総会が5月7日に開催されました。米国証券取引委員会(SEC)の民事提訴や株主代表訴訟の渦中にあるGSの株主総会は大荒れになると予想されていたのですがそれほどのこともなく終わったようです。

GSの開示情報によると、取締役の選任についての議決は、会長兼CEOのロイド・ブランクファイン氏は98.7%の賛成票を得て再任、社外を含むその他の取締役も最低でも98.1%の賛成票を得てすべて再任という結果になっています。注目すべき点は、株主提出議案のひとつであった会長とCEOの分離を要求する議案は、19.1%の賛成票しか得られず否決されています。

報酬を巡る会社提出の議案としては、GSの報酬原則と2009年の指名された幹部社員への報酬についての議案が96.2%の賛成を得て可決されています(報酬の内容については不明です)。

一方で、報酬を巡る株主提案の議案については次の2つの議案が否決されています。

① 報酬の不均衡に関する報告
報酬委員会が幹部社員の報酬の見直しに着手し、次の4つの点について報告書を作成すること。

i) 米国における幹部職員の総報酬とGS社員の中位の社員の給与を比較すること
ii) 相対的なギャップとその理由を分析すること
iii) 報酬体系が過度に高額であるかどうか、また修正すべきであるかどうかを評価すること
iv) 大規模な解雇、または最下層の従業員の賃金のレベルの決定が、幹部職員の報酬の見直しにつながっているかどうかを説明すること

② 幹部職員の報酬と長期的業績
取締役会は、契約の更新あるいは将来の新規の契約において、指名された幹部職員が、会社から得た報酬(税金を繰延べられる退職金をのぞく)の75%を退職後3年間受取りを留保するよう定めた方針を採用すること。そしてこの方針の採用を2011年の年次株主総会までに株主に報告すること。

①は5.2%、②は24.3%の賛成票しか得られず否決されています。

筆者が、この結果を見て驚いたことは、GSの株主は、金融危機以降、金融機関のコーポレートガバナンスの慣行に対して主要国の政府や規制機関が見直しを迫っている点について全く関心を払っていないということです。

会長兼CEOの権限の分離については、金融危機が始まる前から言われてきたことですが、報酬に関するガバナンスについては今回の金融危機以降特に問題とされてきた点です。特に②の報酬と長期的業績のバランスの問題については、このブログでも以前紹介した英国の金融機関のガバナンスについて提案したウォーカー・レビューにおいても重要な論点とされています。

GSの株主は、金融危機以来、他のインベストメント・バンクに比較して急速に業績を改善し利益を生み出してきたGSのマネジメントに対して信頼を寄せたのでしょう。GSはこの株主総会直後に企業基準委員会(Business Standards Committee)を創設し、顧客の重視と行動の透明性確保を強化していこうとしていますが、この株主総会の結果が、長期的に見てGSの業績を維持していくことに資するかどうか注目したいと思います。

(文責:安田正敏)

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