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電子メールをとおして見る米国金融業界の歪み 安田 正敏

2010年05月14日
ゴールドマンサックス(GS)の詐欺容疑をめぐる米国証券取引委員会(SEC)の民事提訴や米国議会での公聴会での証拠として電子メールのやり取りが米国金融業界の歪みを生々しく伝えています。
ゴールドマンサックス(GS)の詐欺容疑をめぐる米国証券取引委員会(SEC)の民事提訴や米国議会での公聴会での証拠として電子メールのやり取りが米国金融業界の歪みを生々しく伝えています。

今回問題となったサブプライムローンを担保とした債務担保証券(CDO - Collateralized Debt Obligation:商品名Abacus - アバカス)の発行を巡っては、ポートフォリオの組成を助言したヘッジ・ファンド、その発行と販売およびトレーディングをしたインベストメント・バンク(GS)およびCDOに格付けをした格付会社の3者がそれぞれの役割を果たしています。中でも、このCDOに投資基準としての格付を付与する格付会社は極めて大きな役割を果たしており、証拠として提出された電子メールはGSと格付会社の緊張関係を活写しています。
4月23日付ウォールストリート・ジャーナル(以下4/23WSJ)によれば、米国上院の資料で2006年4月に格付会社ムーディーズのアナリストの次のような電子メールが公表されています。
「今日発行したいとGSがいっている案件についてGSから強引な要求を受けている」
これはSECが問題にしているCDOの発行の1年前の話です。このアナリストはムーディーズ社が示した格付よりさらに有利な条件を与えるようGSから要求されていました。

別の格付け会社のS&P社のアナリストはGS社のアバカスの脆弱性についておおっぴらに2006年6月の電子メールで次のように語っています。
「この特定のアバカスだけでなくすべてのアバカスの案件に公然の欠陥がある」

そして、その他の電子メールでも格付会社の何人かは潜在的な破綻を懸念していました。2005年6月のS&Pの内部での電子メールは、
「案件を獲得するために格付基準を無理にゆがめることはS&Pの事業をリスクにさらすことになる。とんでもない考えだ」
と言っています。

しかし、それにも拘わらず、格付会社はサブプライムローンを担保としたCDOのスーパーシニアと呼ばれる証券にAAAの格付けを与え続けたのです。その理由は、とりもなおさず、2002年に30億ドル弱(当時の為替レートで約3,750億円)しかなかった主要格付会社3社の収入が、2007年には60億ドル(当時の為替レート約で7,000億円)と約2倍に膨れ上がっていることに示されています。2006年8月のS&P社の電子メールは、
「格付会社は、収入において(CDOの)上位の発行者に多大の恩恵を蒙っているので、今や、一種のストックホルム症候群(犯人と人質の感情共有)にかかっている。それを彼らは誤って顧客価値の創造と呼んでいる」
と自らを皮肉っています。

しかし格付会社のマネジメントの関心は内部のものが心配していることに対しては向けられていません。
ムーディーズ社のトップマネジャーの一人が2007年の電子メールでこの分野での案件ベースでのシェアの下落にたいして
「心配の種は、発行者がコスト管理のためにより格付会社を選ぶようになってきていることか(フィンチ社のほうがもっと安いか?)、またはこれはちょっとした一時的なブレにすぎないのかということだ」
と嘆いているように、ここには、格付会社としての倫理観のかけらも見られません。

そして結果は、S&P社のもうひとつの電子メールがアバカスについて次のように言うような事態になったのです。
「これらの取引は私の膨大な時間を消耗しただけでなく、とてつもないストレスを押し付けました。なぜなら、これらの取引が間違いであることを世間に知らせなければならないのは結局、私だからです。その結果、われわれは、ほとんどまぬけと見られるでしょう」。

それでは、GSはどうだったのでしょうか? 4/16WSJは、この電子メールは、ちょっとした話としてたぶん長く記憶に残るだろう、と指摘したうえで、GSのアバカス事業の責任者であったファブリス・トゥール(Fabrice Tourre)氏が2007年1月23日に友人に当てた電子メールを紹介しています。

「このシステムにもっともっとレバレッジをかけろ、建物全体が崩壊寸前だ・・・唯一生き残る可能性のある者は、すばらしい(ファビュラス)ファブ(リス・トゥール)様だ・・・これらのばけものが何をまき散らすか必ずしもすべて分かっちゃいないまま俺がつくりあげた、複雑で、とんでもないレバレッジの珍奇な取引の真ん中に立ったまま!!!」(注)
そして、彼の2007年2月11日のメールのさわりには、
「CDOは死んだ。われわれにはそんなに多くの時間は残されていない」
とありました。そして、この2ヶ月後の2007年4月26日に90のサブプライムローン債券からなる、今回、SECが問題としたアバカスが発行されました。このうち2007年10月24日までに83%が格下げされ、2008年1月29日には99%まで格下げされ、2009年5月には当初の投資家の投資額はすべてなくなりました。

この間、2009年には業績回復したGSは、従業員の報酬として約160億ドル(約1兆5,200億円)を支払っています。(4/17WSJ)。

(文責:安田正敏 日本語訳も筆者)

(注)筆者がかなり脚色して訳しているので本文を記載します。
なお訳文の「すばらしい(ファビュラス)ファブ(リス・トゥール)」はFabulous Fab(rice Tourre)の掛けことば。
"More and more leverage in the system, The whole building is about to collapse anything nowOnly potential survivor, the fabulous Fab[rice Tourre]standing in the middle of all these complex, highly leveraged, exotic trades he created without necessarily understanding all of the implications of those monstruosities!!!"
(4/16WSJ)

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