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業績よければすべて良し? 安田 正敏

2010年04月23日
コーポレートガバナンスが有効に機能していなくても、経済環境や会社を取り巻くその他の環境が有利に働くことで会社の業績は向上していくことはありえます。しかし、コーポレートガバナンスが不全であると、最近のトヨタの例が示すように会社の業績を長期間にわたって維持していくことは困難になります。
4月23日の日経新聞朝刊11面に富士通の山本正巳社長へのインタビュー記事が掲載されております。このインタビューは富士通の業績見通しを中心にしたものですが、最後に、昨年秋、辞任した野添州旦元社長の辞任問題が業績に与える影響について聞かれた山本社長は、「全くないと思っている。会社の実績が上がってくれば、会社の方向性は間違っていないということになる。会社を強くして実績として示していきいたい」と答えています。

富士通の経営陣の内部での確執と争いは、もちろんコーポレートガバナンスに係る問題ですが、実情を知らない外部のものがコメントすることはここでは差し控えます。ただ、新聞報道が正しいとすれば、山本社長の答えの中にある「会社の実績が上がってくれば、会社の方向性は間違っていないということになる」という言葉は、筆者の耳をすんなりと通り抜けません。

会社の業績、企業価値とコーポレートガバナンスには密接な関係があり、当実践コーポレートガバナンス研究会でも、そのミッションとして、「企業がより良いコーポレートガバナンスを実現していくことを支える活動を行うことで、日本企業の価値を高め、究極的には日本企業の活性化、国債競争力の強化に貢献することを目指します」とうたっています。効果的に機能しているコーポレートガバナンスとは、企業を飛行機にたとえると戦略遂行(リスクテイク)のエンジンとリスクマネジメントのエンジンがバランスよく動いている状態ではないかと思います。そして当初の目的地に安全に計画通りに着陸することが、企業でいえば良好な業績を達成したということになります。

問題は、飛行機が何回もフライトを繰り返すように、企業も継続事業体として続いていくことが大前提になっています。この場合、「会社の実績が上がってくれば、・・・」という言葉に含まれる時間軸が問題になります。短い期間たとえ業績が上向いても、それが会社のコーポレートガバナンスが機能している証拠であると言い切れないということを、過去の歴史は証明しています。過去という言葉が指す時間まで遡らなくても、最近のトヨタのリコール問題もこの例に当てはまります。

つまり、コーポレートガバナンスが有効に機能していなくても、経済環境や会社を取り巻くその他の環境が有利に働くことで会社の業績は向上していくことはありうる、ということです。しかし、コーポレートガバナンスが不全であると、トヨタの例が示すように会社の業績を長期間にわたって維持していくことは困難になります。
富士通に対して問われている疑問は、「会社の業績を長期間にわたって維持していく有効なコーポレートガバナンスが機能していますか?」ということだと思います。この意味で、株主に対する説明が十分になされているとは、筆者には思えません。

(文責:安田正敏)

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