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コーポレート・ガバナンスを強化するための諸原則(バーゼル銀行監督委員会)につい 安田 正敏

2010年04月12日
国際的に活動する銀行を監督するバーゼル銀行監督委員会が、3月16日に「コーポレート・ガバナンスを強化するための諸原則」を公表し、市中協議に付しました。ここに述べられている諸原則は一見かなり一般的なものであり、報酬に関する原則を除けば欧米の銀行も金融危機の前から制度として取り入れていたものであると思います。むしろ、問題はこれらの原則がなぜ機能しなかったのか、それを機能させるにはどうすればいいのかという点を読み解くことだと思います。
国際的に活動する銀行を監督するバーゼル銀行監督委員会が、3月16日に「コーポレート・ガバナンスを強化するための諸原則」(以下「諸原則」といいます)を公表し、市中協議に付しました。この諸原則は次の6つの分野にわたり14の原則からなっています。

  1. 取締役会の職務執行
  2. 経営陣
  3. リスクマネジメントと内部統制
  4. 報酬
  5. 複雑かつ不透明な企業組織
  6. 情報開示と透明性

バーゼル委員会は金融危機が表面化する直前の2006年2月にも、「銀行のコーポレート・ガバナンス強化」という方針を発表していますが、今回のこの原則はこの方針、及び2009年11月に公表された英国のウォーカー・レビュー最終報告とほぼ同様の内容になっています。ここに述べられている諸原則は一見かなり一般的なものであり、報酬に関する原則を除けば欧米の銀行も金融危機の前から制度として取り入れていたものであると思います。むしろ、問題はこれらの原則がなぜ機能しなかったのか、それを機能させるにはどうすればいいのかという点を「諸原則」から読み解くことだと思います。

金融危機の最大の原因は銀行のリスクマネジメントが機能しなかったことですが、それは「諸原則」の二つの分野に起因しています。ひとつ分野は報酬です。つまり報酬と報酬の評価基準である収益に付随するリスクとの関係に二つの不均衡が存在したことです。ひとつの不均衡は報酬がその単年度の収益を基準に決められるのに対し、収益を生み出した取引に係るリスクが長期間にわたっていたこと、もうひとつは、報酬には負の報酬がないのにたいし、取引に係るリスクが顕在化した場合莫大な損失が発生するということです。
ふたつ目の分野は、5.の企業組織です。ここには三つの問題が存在します。ひとつは巨大組織が縦割りに組織され(organizational "silos")、企業全体のリスクを把握することが困難であったこと、もうひとつは様々な証券化商品を作りだしていく過程で、簿外の特別目的会社が複雑に組織され、全体のリスクの把握が困難になったこと、三つ目は、高い収益を生み出すスタープレーヤーとリスクマネジメントの責任者・スタッフの組織上の力関係に不均衡があったということです。

これらの問題を解決するために、すでに具体的な対策が打ち出されています。具体的には、FSB(Financial Stability Board:金融安定理事会-注)が2009年4月に「健全な報酬慣行に関する原則」、2009年9月には「実施のための諸基準」を発表、バーゼル銀行監督委員会が2010年1月に、「報酬の諸原則と標準的評価方法」を発表しており、「諸原則」もこれらの方針に従うことを勧告しています。組織の問題は、具体的な組織方針は個々の銀行の問題ですが、この諸原則に沿った見直しが必要だと思います。

この「諸原則」は個々の銀行の内部におけるコーポレート・ガバナンスについて述べたものですが、筆者はそれだけでは今回のような金融危機を防ぐには十分ではないと思います。つまり金融システムという公共財を提供する銀行業という産業を、監督機関としてどのように捉え管理していくかという大きな問題が存在します。これは自己資本に対する規制の強化という単純な対策では解決できない問題です。これについては、追って意見を述べる予定です。

(文責:安田正敏)

注:金融安定理事会〔Financial Stability Board:FSB〕は、①国際金融システムに影響を及ぼす脆弱性の評価及びそれに対処するために必要な措置の特定・見直し、②金融の安定に責任を有する当局間の協調及び情報交換の促進、③規制上の基準の遵守におけるベストプラクティスについての助言・監視等を役割としています。第2回金融・世界経済に関する首脳会合(ロンドン・サミット:2009年4月)の宣言を踏まえ、旧金融安定化フォーラム(FSF)が、より強固な組織基盤と拡大した能力を持つ組織として再構成されました。
  FSBには、そのメンバー国及び地域の関連当局、金融監督当局による国際機関(バーゼル銀行監督委員会、証券監督者国際機構(IOSCO)、保険監督者国際機構(IAIS)及び国際金融機関(国際通貨基金(IMF)・世界銀行)等が参加しており、我が国からは金融庁、財務省及び日本銀行が参加しています。(金融庁ホームページより)
この「健全な報酬慣行に関する原則」は実際には旧い組織であるFSAにより発表されました。

ここで述べた資料は次のURLより入手できます。

銀行のコーポレート・ガバナンス強化
(Enhancing corporate governance for banking organization)
コーポレート・ガバナンスを強化するための諸原則
(Consultative Document: Principles for enhancing corporate governance)
ウォーカー・レビュー最終報告
FSB「健全な報酬慣行に関する原則」(Principles for sound compensation practices)
FSB「実施のための諸基準」(Implementation standards)

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