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バーゼル委「コーポレート・ガバナンスを強化するための諸原則」公表の背景を考える 門多 丈

2010年04月12日
今回バーゼル委が原則を公表し市中協議に付した意義は、銀行業務に潜在する多様なリスクを経営としていかに認識し、その監視の機能を取締役会がいかに果たすかの課題を改めて提起したことにあろう。
バーゼル銀行監督委員会の「コーポレート・ガバナンスを強化するための諸原則」についてはこのブログでも議論が深まっているが、銀行業務に潜在する多様なリスクを経営としていかに認識しその監視の機能を取締役会がいかに果たすかの課題を改めて提起したことに意義があると思う。

グローバルな金融危機の中で銀行の企業としての継続性の課題や経営・業務上のリスクの諸問題が顕在化した。バーゼル委が従来重視した銀行経営のリスク管理上の課題はリスク・キャピタル(リスク性資産などに対する所要自己資本)のルール化に見られるように信用リスク、金利などの市場リスクとオペレーショナル・リスクであった。

今回のグローバルな金融危機で顕在化した銀行や金融システムの問題は多様で複合的なリスクの同時多発的な顕在化であった。具体的には金融資産の極端な減価と流動性の喪失、オフバランス資産の強制的なオンバランス化、CDS(信用リスクのヘッジ契約)やレポ(証券貸借)取引でのカウンター・パーティ・リスク、預金の取り付け騒動、などであった。この間これに対応するかたちでバーゼル委ではリスク・キャピタルについては安定性の高いコア・キャピタル(普通株、内部留保など)の概念の導入、リバレッジ(債務と資本の比率)規制、債務の質(安定性の高い預金)の重視、などを議論してきた。

今回発表された「コーポレート・ガバナンスを強化するための諸原則」はこのような多様で複合的なリスクをいかに早く認識し、計測し統合的に管理するための原則と銀行組織のベストプラクティスを提示する試みである。その中での取締役会の役割を最重視していると思われるが、具体的には

・ 取締役会(board)の役割として自行の長期的な金融利益や安全性を勘案したリスク戦略遂行の承認ならびに監視
・ 取締役会の資質として自行が追求しようとする個々の重要な金融業務に関する十分な知識と経験に基づく監視
の機能である。

取締役会では銀行経営としての risk appetite ( リスク許容度)とrisk tolerance (リスク耐久度)が、銀行のミッション・戦略・収益目標との関連で明確に議論されることも期待されている。この関連では取締役会における社外取締役の役割が重視されており、注目すべきは「取締役会の議長は原則社外取締役であるべき」と提示していることである。

「コーポレート・ガバナンスを強化するための諸原則」の中では 独立したリスク管理機能の重要性を強調し、最高リスク責任者(chief risk officer)やその同等職位者に、十分な権限、地位、独立性、経営資源及び取締役会へのアクセスが与えられるべきと提示されている。

前のブログで安田氏がコーポレート・ガバナンスの制度は導入されるだけではだめで実効性が肝要と強調されている。そのためにはバーゼル委は過去の失敗例の検証もすべきではないか。具体的にはリーマンやAIGの取締役会やリスク・コントロール委員会で、今回提言されているようなリスク論議や経営としてのリスク認識がどのようになされていたのか。
また損失やリスクが深刻化した時点(ポイント・オブ・ノーリターン)で取締役会(特に社外取締役)の牽制がどう働いたかの検証である。

(門多 丈)

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