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違和感と緊張感-社外取締役を巡る感情 安田 正敏

2010年03月24日
筆者は最近、社外取締役を巡る感情について新しいことばを聞きました。「緊張感」ということばです。この「緊張感」ということばこそ、企業の意思決定のプロセスに社外取締役あるいは社外監査役が持ち込むべき価値ではないかと思います。
いままで社外取締役についていろいろな方と議論する中で共通に出てくることばが「違和感」ということばです。

多くの日本の企業の取締役はその会社に入社以来ずっと同じ企業文化の中で組織の階段を昇ってきた仲間同士です。もちろん、会社内部での部門間の利害を代表する者としての確執はあるでしょうが、それもコップの中の嵐のようなもので、仲間はその企業特有の考え方、行動、言語などを共有しています。そのような環境のなかでは、知らないうちに暗黙の了解が形成され、非常に重要な経営リスクを含む取締役会の議案も当然のこととして受け入れられる場合が少なくないと思います。ここに、社外の人間が取締役として入ってくることに対しては、当然のことながら「違和感」が先に立つでしょう。別のことばでいえば拒絶反応ということでしょうか。「社外の人間に我々のビジネスは分からない」という反応です。これが、現在まで本当の意味で独立した社外取締役が日本の企業に受け入れられない理由であることは周知の事実です。これは猿の社会でも同じでとても理解し易い感情です。

ところが、筆者は最近、社外取締役を巡る感情について新しいことばを聞きました。実践コーポレートガバナンス研究会では、5月の17日に「役員の独立性について」のセミナーを準備しています。そのセミナーにおける講演を依頼するために、何人かの現役の役員(取締役及び監査役)にお会いしました。今回お会いした一人の方が、「だけど、やはり社外の目で見られているということは、緊張感を生み出すな」とぽつりとつぶやいたのが印象的でした。この「緊張感」ということばこそ、企業の意思決定のプロセスに社外取締役あるいは社外監査役が持ち込むべき価値ではないかと感じた次第です。この考え方の軸で見た場合、社外取締役あるいは社外監査役が、その企業のビジネスを深く理解しているかどうかは、重要ですが二次的な要素になります。

米国の社外取締役制度も外形的にはすぐれた制度に見えましたが、多くの社外取締役がこの「緊張感」をつくりだすのに失敗したことが、コーポレートガバナンスが破綻した原因だったと思います。このブログで紹介した英国の銀行におけるコーポレートガバナンスに関するウォーカー・レビューの最終報告書でも、この仲間意識(group thinking)について注意を促しています。社外役員という異分子を「違和感」をもって拒絶するか、「緊張感」をもって受け入れるかの差が、コーポレートガバナンスを機能不全にするか機能させるかの分かれ目になるのではないでしょうか。

(文責:安田正敏)


コメント
同感です 門多 丈 | 2010/03/27 09:32

私が社外監査役をしている企業の社長に大変な実力者ですが(自分が議長を勤める)取締役会の日は非常に緊張すると言われたことがあります。説明義務(アカウンタビリティ)の強化の意義もあると 
思います。社内用語で話さずしっかり議事録を残す事も重要になります。またよくある会社の意思決定は実質経営委員会で行われる 
状況の見直しにもつながり、ガバナンス構造の確立ともなると思います。

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