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ポートフォリオ戦略の視点が欠落し迷走する公的年金運用議論 門多 丈

2010年03月15日
公的年金の運用を巡る政府内での議論が錯綜している。積極運用への転換を唱える総務相と慎重姿勢の厚生労働相が対立しているとのことである。「積極」「慎重」を云々する以前に、公的年金としてもグローバルな運用環境の変化に応じた運用のあるべき姿とポートフォリオ戦略についての考え方を深め議論をすべきではないか。
公的年金の運用を巡る政府内での議論が錯綜している。長妻厚労相は現状の資産配分のままで5年凍結し運用目標は設定しないという。「安全運用」の考えと言うが、何もしないことにもリスクがある訳で運用の責任を放棄していると言うべきである。

一方原口総務相は積極的運用への転換を唱えているが、当初の議論が「2008年度に10兆円の損失を出した問題」から出発したようにポートフォリオ運用についての考えの理解が不足しているように思う。年金積立金管理運用機構(GPIF)が公表している資産分散のベンチマークからは2008年度の損失は想定された範囲であり、リバランスを行う(時価が上下し資産産構成比率が変わった時に当該資産を買い増ししたり売却したりする)原則を実行したなど運営面では2008年度に改善もあったと聞く。原口総務相の提案する積極運用は、市場の原理から言えばさらに運用収益の上下へのブレ(特に単年度ベースでの)が大きくなることを覚悟すべきであり、年金制度のあり方を含めを含めそれなりの覚悟をして決定すべきことと思う。

GPIFに政府系ファンド(SWF)の役割を期待するのは乱暴だ。我が国がSWFを立ち上げる場合はSWFの目的から議論すべきであり、目的は公的年金のそれとは自ずと違うはずである。またSWFは集中投資をする戦略を取ることもありうるので、年金のようなポートフォリオ分散の考えをとるべきとは限らない。

年金運用のあり方についてはグローバルに大きな曲がり角に来ている。背景としてはグローバル金融危機があり、株価の下落とリスク(価格変動率で測った意味での)の増加、分散の難しさ(かっては株式と債券は価格変動の相関が低く分散の効果があったが、金融危機の中では両者の価格変動の相関が高かった)など過去にはなかったポートフォリオ運用面での環境の厳しさがある。その中では従来の有価証券投資をを中心とした資産配分と運用管理からのパラダイムシフトが必要となっている。従来の年金運用が過去のリスク・リターンによる資産配分であったことから脱皮し、企業・資産価値向上や将来のキャッシュ・フローのパターンに着目したフォワード・ルッキングの視点での運用を目指すべき時期に来ていると思う。

海外や新興国企業への投資もこのような新たな投資戦略あり方の議論の中から緻密に計画し、それに伴うリスクの認識と然るべき管理手法の検討も深めた上で実行すべきである。公的年金運用についての政府内の議論もこの例外ではない。

(文責:門多 丈)

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