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金融庁の情報開示強化案について思うこと 門多 丈

2010年02月15日
金融庁が上場企業についての情報開示規制の強化案を発表した。企業経営の透明性とガバナンスの点から注目すべき動きであり、具体的には株主総会での議論や議決権行使活動に大きなインパクトを与える。
金融庁が上場企業についての情報開示規制の強化案を発表した。役員報酬の個別開示、株式持ち合いの状況や議決権行使結果の公表、企業統治(社外取締役・監査役の有無)の情報開示など、情報開示を強化する方針である。企業経営の透明性とガバナンスの点からは注目すべき動きであり、具体的には株主総会での議論や議決権行使活動に大きなインパクトを与える。

先週、当研究会は「議決権行使と変貌する株主総会」のテーマで月例勉強会を開催した。講師の日本プロクシーガバナンス研究会の吉岡洋二所長からは fiduciary duty (受託者責任)やaccountability  (説明責任)の点から、年金基金や投資信託会社などの株主総会における議決権行使の妥当性についての責任や行使結果の開示義務の強化、などのグローバルな流れが説明された。

今回の金融庁の情報開示の強化案はこの背景を頭に入れると理解しやすい。役員報酬については然るべきモティベーションを与えるとともに、今回のグローバルな金融危機に見られたような経営陣の暴走に歯止めをかける点からの精査が必要である。株式持ち合いは利害相反のリスクを内包する。議決権行使結果の公表は企業買収防衛策、取締役・監査役の選任、役員報酬、配当などの議案についての評価の点から重要である。

役員の独立性はガバナンス議論の中核をなす。吉岡講師によると東証へのファイリング(電磁化)による株主総会の議案の早期配布や、臨時有価証券報告書を作成し株主総会の前に株主が詳細な情報を入手できる環境作りも進んでいるとのことである。

役員報酬の開示については議論に混乱がある。財界は経営陣をディモティベートすると反発する。正しい対応は然るべき報酬を受け取るべきで、日本の企業経営者は極端な場合は米国より2ケタ少ない報酬しか受け取っていない。また長銀の破綻での旧経営陣の災難(「善管注意義務」を問われ無罪になるまで10年にわたり被告とされた)にもあるようにリスクも大きい。そもそも報酬の開示の要求は報酬についての考え方やその構造(固定と業績連動部分)について議論するためにあるのである。

今回の開示規制の強化の示唆するもう一つの重要な点は、このような項目について株主や社会に開示する妥当な内容にするには企業内での緻密でフェアな議論が必要であり、そのためには社外取締役、社外監査役の積極的な関与が必要である、ということと思う。

(文責:門多 丈)

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