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サイレントマジョリティって何ですか? 安田 正敏

2010年02月12日
筆者が疑問に思うのは、企業の株主の中でサイレントマジョリティってありうるだろうかという点です。「口を出さずに資金だけは提供して欲しい」というのであれば、優先株や社債などの発行という道があるのが現在の資本市場です。日本を代表する大企業の経営者の中に、サイレントマジョリティという株主を求めている経営者がいたとすれば、いささか株式会社制度にたいする理解不足といえるのではないでしょうか。
キリンホールディングスとサントリーホルディングスの経営統合の破談が2月8日に公表され、2月9日の朝刊各紙はそのニュースを大々的に報道しています。その日の日経新聞の朝刊三面には「『1対0.5』提示で暗雲」、「『創業家の了承』でズレ」、「解釈割れた『透明性』」などの中見出しが書かれていました。これらの内容についてコメントするにも、外部の人間には窺い知れないことが多々あり、新聞などマスコミ報道だけの情報からは難しいものがあります。

しかし、コーポレートガバナンスの観点からは、少し見逃すことが出来ない言葉が報道の中でつかわれていました。日経新聞の三面にあった、「キリンはサントリーに『サイレントマジョリティ(静かな大株主)』の役割を期待していた。」という文章です。これに関し、サントリーの佐治社長のコメントが載せられていました。「・・・。結局(創業家が)サイレントマジョリティでいてほしいということと、いざとなればモノを言いますよというところの差ではないか」。

筆者が疑問に思うのは、企業の株主の中でサイレントマジョリティってありうるだろうかという点です。サイレントマジョリティという言葉は、そもそも政治用語であり、1969年に米国のニクソン大統領が、ベトナム戦争に対する反戦運動をしない米国市民はベトナム戦争を支持しているという意味でこの言葉を使いました。英語の辞書の和訳にも「もの言わぬ大衆」と記載されています(EXEED英和辞典)。このことばを、「経営を左右するほどの株式を持ちながら口は出さない株主」という意味で使っているとすれば、これほど資本主義の経済原則に反することはないのではないでしょうか?

確かに、まだ株式持合いが当然のこととされていた高度経済成長時代は、一見、そのような株主は日本企業に存在していました。しかし、彼らは全く黙っていたのではなく、社長人事などのトップ人事についてはそれなりに口を出し、彼らが同意した経営陣の行う経営についてはあまり口をださない、または、黙っていても余程ヘマな経営をしない限り、十分なリターンが得られたというのが実情だったでしょう。

「口を出さずに資金だけは提供して欲しい」というのであれば、優先株や社債などの発行という道があるのが現在の資本市場です。日本を代表する大企業の経営者の中に、サイレントマジョリティという株主を求めている経営者がいたとすれば、いささか株式会社制度にたいする理解不足といえるのではないでしょうか。

(文責:安田正敏)

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