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内部監査とコーポレートガバナンスに係る法制度 安田 正敏

2010年02月04日
会社の内部監査はコーポレートガバナンス、内部統制に関する二つの法律(会社法と金融商品取引法)及び監査役制度(会社法)の関係の中でどのように位置づけられるのか整理しました。要約しますと、会社の内部監査は直接的に法律によって規定され援護されているものではありませんが、コーポレートガバナンスを支える内部統制を実効的に機能させるために、監査役制度及び会社法による内部統制の規定、J-SOXなどの法律が、実質的に企業に要請している重要な機能ということができるのではないでしょうか。
月間監査研究 2010年1月号(No.430)の投稿コーナーに「コーポレート・ガバナンスと内部監査」というタイトルの記事(以下、投稿記事といいます)が掲載されています。この記事に啓発されたことは、「コーポレート・ガバナンスが法律論として議論される場合、内部監査が議論の対象となることが少ない」という指摘です。そこで、コーポレートガバナンス、内部統制に関する二つの法律(会社法と金融商品取引法)及び監査役制度(会社法)と内部監査の関係について筆者なりに整理してみたいと思います。

投稿記事は、コーポレートガバナンスを「企業の本来的所有者である株主及び株主ではないが企業経営に大きな影響を与える企業の利害関係者が、企業の経営者及びその意思決定に対するモニタリング及びガバナンスの仕組みを構築しかつ有効に機能させることによって、企業価値の毀損を防ぎ、健全で継続的な企業の発展を促進すること」と定義しています。コーポレートガバナンスと内部統制の関係でいえば、この定義の中の「企業の経営者及びその意思決定に対するモニタリング及びガバナンスの仕組みを構築しかつ有効に機能させること」が内部統制に当てはまります。つまり内部統制は、コーポレートガバナンスを機能させる仕組みといえます。

次に、内部統制と内部監査の関係について考えてみます。経営者は、その善管注意義務の一部として、率先して会社の業務における経営リスクを監視し管理しなければなりませんが、会社の組織が大きくなると経営者自らその業務を行うことは不可能になります。そこで、経営者は、経営リスクを監視し、管理する方針と仕組み(内部統制)をつくる必要に迫られます。その中で経営リスクを経営者に代わって監視するという重要な役割を担うのが内部監査部門です。したがって、程度の差はあれ日本の会社には内部統制と内部監査部門は存在しており、コーポレートガバナンスを支える重要な役割を果たすことが期待されていました。

最後に監査役制度及び法律と内部統制、内部監査の関係に触れます。上で「期待されていました」と書いたのは、その期待が裏切られるケースが過去において少なからずあったからです。「期待が裏切られるケース」はほとんどの場合、経営者のリスクマネジメントに対する考え方と行動に問題があった場合です。そこで、このような問題を起き難くすることを法律的に保証するためのいくつかの制度があります。

まず、監査役です。監査役設置会社では取締役の業務執行を監査役が監視する権限が会社法によって与えられています。この監視の範囲は取締役が経営リスクを監視するためにリスク管理の方針を策定し実効的な内部監査によってリスク管理を行っているかどうかという点も含まれます。
二つ目は、会社法による内部統制の規定です。三つ目は、金融商品取引法による財務報告に係る内部統制の規定(J-SOX)です。これら二つの法律は、それぞれ異なる背景から要請されて成立した法律で、カバーする範囲も強制力も異なっていますが、これらの法律を遵守するために、内部統制の枠組みとして国際的な模範的慣行(ベストプラクティス)であるCOSO(注)の枠組みを採用することが、日本の企業でも一般的になっています。この枠組みの中で内部統制の6つの基本要素のうち統制環境が、内部統制を構築するうえの基礎となります。この統制環境の重要な部分が、経営者の経営リスクに対する考え方、管理の方針、監視と管理(行動)です。

内部監査の実効性と効率性はこの要因に大きく依存します。例えば、投稿記事が指摘されているように、内部監査部門が監査対象となる業務執行部門から人事及び予算をふくめ真に独立していないと、実効的な内部監査は難しくなります。監査役の監視、内部統制の実効性の評価もこの点を見落とすことはできません。したがって、内部監査部門の責任者が経理部門や人事部門を兼ねている場合、真に実効的な内部監査が行えるかどうか疑義を持たざるを得なくなり、監査役監査や内部統制の評価においてもこのようなケースでは注意して行う必要があるでしょう。

以上、要約しますと、会社の内部監査は直接的に法律によって規定され援護されているものではありませんが、コーポレートガバナンスを支える内部統制を実効的に機能させるために、監査役制度及び会社法による内部統制の規定、J-SOXなどの法律が、実質的に企業に要請している重要な機能ということがいえるのではないでしょうか。

注:COSO The Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission

(文責:安田正敏)


コメント
内部監査ヘの期待 門多 丈 | 2010/02/06 20:04

私は監査役(特に社外監査役)が責務を果たすためには内部監査の充実と実効性が決め手の一つと思っています。さらに監査役については最近ますますリスク・フォーカスのアプローチが求められること、日常的に組織や業務の状況をつかめない社外監査役により重く多様な責務が期待される状況下では、内部監査ヘの(良い意味での)依存や協働は必須となっていると思います。個人的には常勤監査役と内部監査の充実していない会社の社外監査役は受けるべきでないと思っています。


金融検査マニュアルと内部監査 門多 丈 | 2010/02/20 10:25

金融検査マニュアルをチェックしました。冒頭の経営管理(ガバナンス)態勢のⅠ部が「代表取締役、取締役、取締役会」となっており、Ⅱ部が「内部監査態勢の整備・確立状況」となっています。その中で取締役会による内部監査態勢の整備・確立、内部監査部門の役割・責任(実施要領の作成など)、内部監査の有効性の分析・評価などが検査項目とされています。この内容は銀行のみならず企業として内部監査体制を自律的に強化することに役立つと考えます。

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