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日本での株式公開の激減に思う 門多 丈

2010年01月25日
昨年は日本企業の株式公開は激減した。起業や競争力のあるビジネス・モデルが日本には不足していることが根本にある。企業金融の面では長期的な視野に立った専門性の高いベンチャー・キャピタル(VC)や影響力のあるエンジェル(個人のスポンサー投資家)がほとんど存在しないことが致命的な問題となっている。株式公開にあたってはガバナンス体制を充実させることが重要である。
先日、大手証券の株式公開部長と話す機会があったが、昨年は日本企業の株式公開は激減したと嘆いていた。日本にとっては株式市場ならず将来の経済成長に関しても由々しき事態である。サブプライム・ローン危機によるグローバルな経済や資本市場の停滞が背景にあるが、企業家精神に富んだ個人による起業や競争力のあるビジネス・モデルが日本には不足していることが根本にある。これを支える企業金融の面では長期的な視野に立った専門性の高いベンチャー・キャピタル(VC)や影響力のあるエンジェル(個人のスポンサー投資家)がほとんど存在しないことが、構造的に致命的な問題となっている。

日本のVCも30年の歴史を持つが、組織や構造の面で弱点がある。多くのVCが数パーセントのマイノリティ出資しか行っていない。これでは長期的なハンズオンの(経営、事業、人事組織、管理などの)多様な支援を行う能力も迫力も持てない。マイノリティ出資しかできないのは起業家がVCを警戒して認めないともいわれるが、これは日本のVCが息長く「共感を持って」創造・想像的に支援をしてくれる投資家であるという信頼を、起業家から得ていないいということでもある。日本のかなりのVCが銀行・証券系であることも「もっぱら企業成長と企業価値の向上に資する」べきVCの活動の透明性を低めてきた。

エンジェルの存在も重要である。自ら起業し株式公開や企業売却で富を得た富裕な個人は企業家精神に富んだ息の長い投資家として、事業にアイデアを与えるのみならず企業が苦境にあるときに経営者のメンターとして支え叱咤する力を持つ。スタンフォード大学のキャンパスでグーグル社の二人の創業者(博士課程の学生)から構想を聞いたシリコンバレーのVCの大立者が、その場で10万ドルの小切手をその場で切ったという。そのスピードとスピリットが日本にもあればと思う。

株式公開後も骨太に一層の成長をするためには事前のコーポレート・ガバナンス態勢の充実が重要となる。企業経営者も成長を継続し資本や借入の調達を行うためのインフラとしてガバナンスを考えるべきと思う。面談した株式公開部長からは、公開準備では専門性が高く有能な常勤監査役の確保も重要とのコメントがあった。我田引水ながらこの分野での人材の育成と企業の内部統制のコンサルティングの活動を目指す我々の研究会の使命を再確認する機会となった。

(文責:門多 丈)

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